上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top ▲
お題「チョコレート」「ギター」「文学少女」

お久しぶりです。

ブランクがあったせいかは分かりませんが時間いっぱい使いました。

おかげで、過程がねぇ。

もっときちんと埋めたかった。

急ぎ足過ぎる。

そんな感じで、どうぞ。
――図書室の亡霊。



そんな噂を聞いたのは入学当初だった。

僕の通う高校には大きな図書室がある。

蔵書の数もかなりのもので、県内でトップの冊数を誇るとも言われている。

ただ、その図書館に不吉な噂がある。


それが、亡霊だ。


なんでも、今から数十年前。

ひとりの少女が図書室で行方不明になったらしい。

その少女は本が大好きで、暇さえあれば図書室に行っていたらしい。

あれだけ大きな図書館であれば、文学少女の彼女にとって理想郷だったのかもしれない。

彼女は図書室の鍵を持っていた。

どうやって手に入れたのか、その経緯は不明である。

しかし、とにかく彼女は図書室のスペアキーを持っており、閉室時間を過ぎてもそこに居座ることができた。

それが問題だった。

図書室の開いている時間以外、彼女が図書館でどのように過ごしているのか把握できる者がいなかったのだ。

結果、ある日突然、それこそ神隠しにでもあったかのように彼女は消えた。

もちろん彼女の両親は捜索願いを出したし、友人たちも死に物狂いで探したらしい。

けれど、彼女は見つからなかった。

彼女のいなくなった日。

見回りをしていた若い警備員が以下のように証言している。

「もうすっかり遅くなったというのに、図書室の明かりがついていた。

それがもはや日常茶飯事のことになっており、今日もまた例の子がいるのだろうと思った。

だからあまり遅くならないように声をかけようと扉を開けた。

しかし、どこにも彼女の姿はない。

彼女の鞄と、読みかけの本だけ。

しばらく待ってみたが、彼女は戻らない。

だから校内の見回りついでに彼女を探すことにした。

しかし、見つからない。

不審に思ったので、彼女の両親に連絡を入れた。

その後の事は、ご存知の通りだ」





かくして、彼女は限りなく死亡に近い行方不明という形で決着が付いた。

……かに思われた。

その日以来、図書室で不可解なことが起こるようになったのである。

例えば、誰かが怪我をするとか病気になるとか、そういった類のことではない。

図書室で騒ぐ人がいると、

「読書中はお静かに」

という声が聞こえるのだ。

注意された者も、初めは近くの誰かかあるいは図書委員にでも言われたのだろうと思っていたが、実際はそうではなかった。

誰も、そんなことは言っていないのだ。

ただ、騒いでいる者の耳にだけ届くように声がする。

「読書中はお静かに」





これが、噂の概要である。

僕は好奇心にかられて、すぐさま図書室に向かった。

無駄に騒いでみたりもしたが、注意するのは図書委員や先生ばかり。

僕の耳に、例の声は聞こえなかった。

やはり、噂は噂か……。

そう思うと何だか深く落胆してしまい、それ以来、僕の足は図書室から遠ざかった。



~~~



――そして、1年の月日が流れる。



学年があがり、例の噂のことなどすっかり忘れていた僕は特に意識もせず図書室に足を踏み入れた。

たまには読書をしたい気分にもなるのだ。

吸い込まれるように本棚の迷路を抜け、一冊の本に目を留めた。

異様に埃だらけなのが逆に気になり、中身をぺらぺらとめくる。

なかなか面白そうだ、と思い、それを持っていこうとすると、急に眩暈を覚えた。

続いて、誰かに肩をつかまれる感覚。

そして、声。

「それは、私の本だから」

思わず叫んだのは仕方がないことだろう。

そこに人の気配はなかった。

けれど、現実にそこに“彼女”がいた。

色白で、華奢な身体。

文学少女といえば、真っ先に思い浮かぶであろう典型的な姿の少女がそこにいたのだ。

着ている制服は若干古い。

これが、もしや数十年前のデザインなのかもしれない。

彼女は驚く僕にため息をひとつ吐きかけると、唇を尖らせて言った。

「読書中はお静かに」





こうして彼女と出会ったわけだが、不思議と恐怖心は覚えなかった。

足もあるし、体が透き通っているわけではない。

ただの人間だ。

どうも僕以外の人間には見えないらしい。

何故だかは、よく分からない。



それから、彼女の本についてだが深い言及をやめておくことにする。

有名作家の恋愛小説だと言えば良いだろう。

淡い初恋を描いた小説であるのだが、そこはご想像にお任せしたい。

どうやら彼女は、その本をとても大事にしていたらしい。

大事にしていた理由は教えてくれなかったが、その本は図書室の本ではなく彼女の私物であったらしい。

つまり、最後に残されていた本というのがそれだ。

「あなた、名前は?」

そうして告げた僕の名に、彼女の表情は凍りつき、ひとり納得したように頷いた。

「そう」

何も分からないのは、僕ばかりであるようだ。





さて、その一件以来、僕は頻繁に彼女と会うようになった。

と、言うか彼女が話しかけにやってくるのだ。

断れる度胸はない。

彼女の表情は人間よりも人間らしい。

ころころと笑う彼女の顔は、僕の心に巣を作った。

叶わないことは分かっている。

けれど、僕はもしかすると――。



そんな、もやもやした日々が数週間ほど過ぎていった。



~~~



「私、好きな人がいたの」

ある日の夕暮れ、彼女から突然の告白を受けた。

「へぇ……」

複雑な心境で返答する僕を尻目に、彼女は続けた。

「多分、ね」

「え?」

「多分、そのせいだと思うの」

「ごめん。話がよく……」

呆れた様に笑う彼女の顔が僕に近づき、何かを考える間もなく唇に何かが触れた。

冷たい、死の味がした。

「ど、どういう――」

「私の好きな人の名は」





僕の父親だった。



~~~


僕の父に想いを馳せた理由は非常にシンプルだった。

彼女の大事な本。

それは父からの贈り物だったらしい。


「本が好きって聞いたから」


どうやら、僕の父も彼女に好意を抱いていたのかもしれない。

口下手で照れ屋な父がそんなことをするだなんて、想像ができないからだ。

果たして、それが彼女の中で強い印象となり、次第に恋心へと変わっていったという話だ。



ここまで聞いて、ようやくと言うべきか僕にもいろいろと理解できた。

僕にだけ、彼女が見える理由。

あるいは、彼女が僕の前に現れた理由。

それは、全て、彼女の未練である恋心を満たすためなのであろう。



僕に想いを打ち明けることで、彼女の未練は幾らか和らいだのかもしれない。

下手をすると、誰にも言わなかった自らの恋心を父親の面影の残る僕に伝えることで、全てが解決した可能性もあった。

未練を遂げた亡霊はどうなる。

答えは簡単だ。





それは、彼女にとっては良いことなのだろう。

ただひとつだけ。

そうなる前に聞かなければ分からないことがあった。





彼女が消えた理由、である。



~~~



その日、彼女はラブレターを書いていた。

もちろん、僕の父宛である。

しかし、ラブレターを直接渡すのは恥ずかしい。

だから彼女はラブレターを例の本に挟み、そのまま父に渡そうと考えた。

全てのきっかけとなった本に、想いを託したのだ。

そうして、その本を大切に鞄の中にしまおうとしたときだった。

いきなり扉が開き、彼女は驚いて本を床に落としてしまう。

はらりとラブレターが飛び出し、それはそのまま本棚の下に滑り込んだ。

慌てた彼女は本棚の下を覗き込む。

全くの無防備の姿勢になった彼女は、そこで襲われたのだ。

例の、若い警備員に――。







必死に抵抗し暴れまわった彼女は、なんとかして押さえつけようとする警備員によって、命を奪われた。

我に返った警備員は彼女の身体をばらばらにし、どこかの山に埋めたらしい。

詳しいことは教えてもらえなかった。

「私は静かな場所にいられればそれで良い」

というのが、彼女の言葉である。



~~~



事の顛末を聞き終えた僕はすぐさまラブレターを探した。

止めて欲しい、という彼女を振り切り僕は探し回った。

それを読まなくてはいけない気がした。

彼女がまだ、この場にいるうちに。

残り時間はわずかしかないのだろう。

彼女の身体はぼんやりと透け始めていた。



~~~



時は無常だ――。

彼女の身体がすっかり消えて無くなってしまう前にラブレターは見つからなかった。










という意味で無常と言ったのではない。



見つかったラブレターは文字が読めるような代物ではなかった。

数十年前に書かれた手紙は、もはやその原形をとどめていなかったのだ。

それを見て、彼女は安心したような、それでいてどこか切ない顔つきになり、小さく笑った。







瞬間、舌に乗せるとあっという間に溶けていくチョコレートのように、彼女の姿が溶けていった。







その身体を引きとめようと手を伸ばすが、僕の手が掴んだものは彼女の身体ではなかった。

僕の手に残ったのは彼女が残した一冊の本。

僕はそれを鞄につめて、学校を後にした。





僕はこの本を読まなければならない。



~~~



ギターを鳴らす。

弾くのではない。鳴らすのだ。

なんとかして僕の嗚咽をかき消さなければならない。

ただの雑音が部屋に充満し、堪えきれなくなって溢れ出す。

壁から窓から扉から染み出した雑音が夜の闇に広がっていく。

これはまた近所迷惑だと苦情がくるだろう。

その前に飛び起きた両親が叱責しにくるかもしれない。

それでも良い。

そしてできれば父親に出てきて欲しい。

ついでに殴って欲しい。



僕は彼が恋した人に恋をしたのだから。

しかも――。



ひとしきり鳴らし終えた後、例の本を手に取る。

ギターの余韻の中、彼女の凛とした声が聞こえた。





「読書中はお静かに」



完。


banner2.gif にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

2009.04.06 Mon l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

コメント

コメントの投稿












       

トラックバック

トラックバックURL
→http://hungry1spice.blog25.fc2.com/tb.php/96-980372c5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。