上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top ▲
お題「道化」「浴衣」「ラーメン」

びみょー。

難しかった。

どうぞ。


とんだピエロだ。



僕はいつでも前向きに生きていたはずだ。

なんでも楽しく、笑顔で。

どんなに辛い日々も笑って、おどけて、乗り越えてきたはずだ。



でも、やはりただの道化でしかなかった。



現実は厳しい。

先日、僕の会社が倒産した。

さすがにいつもの調子で乗り切れるダメージではない。

手元に残ったのは、たくさんの借用書だけだ。

服も夏場に買った、薄い浴衣しかない。

浴衣では、この冬を乗り越えられないだろう。

寒い。寒すぎる。

身体も、心も。

ついでに、財布も……。



ピエロが得たものは、何もない。



周りに「社長」と囃し立てられ、良い気になっていたのかもしれない。

所詮、作り上げられた道化には無理があったのだ。

しかし、僕の顔はもはやただの仮面に成り下がってしまった。

随分、長いことピエロを演じすぎたのだ。

もはや他の生き方をするゆとりなどない。

ピエロの位置に甘んじ、贅沢な暮らしをしてきた罰がこれだ。

ならば、それを受け入れるのもまたピエロの最後の役目であろう。



悲しき道化は、今日、その役を降りる。



冬の冷たい風が突き刺さる。

僕は力なく道をさまよった。

別に自らの手で降りずとも、自然に降りられるだろうことは予想できた。

空腹が異常なのだ。

胃の中は空っぽ。

空っぽすぎて、逆に吐き気がする。

吐いても、何も出てこない。

空っぽ。

胃も、胸も、そして、頭も。



ふと、美味そうな匂いが鼻をついた。



横を見ると、そこには一軒のラーメン屋。

しかし、すぐに首を横に振らざるを得ない。

金なんて、ない。

湯水のように使っていた記憶も、儚い夢だ。

今の僕には、ピエロの仮面しかない。

何の役にも立たない、道化の肩書きしか、ない。



どれくらいそこに立ち尽くしていただろうか。



夜も深まり、店じまいにと店主が中から出てきた。

この寒空の下、浴衣姿でぽけっとしているピエロを見て、心底驚いたらしい。

人の良い彼は僕を店内へと招いてくれた。

僕はうわごとのように呟いた。



「お腹が、空いた」



果たして、一杯のラーメンが僕の目の前に出された。

生唾を飲む。

ごくり、と。

しかし、箸を手に取ることはできない。

心配そうな顔の店主を見て、僕は口を動かした。



「お金が、ない」



いいから、食え、という声がした。

その声がどこから聞こえたかを理解できないくらい、僕は限界にきていた。

まるで天から降ってきた神の声であるかのような、その一言に僕はゆるゆると腕を動かし、ラーメンをすすった。



立ち込める湯気が、僕の冷えた頬を温めた。

厚めに切られたチャーシューが、僕の空になった胃を埋めた。

濃厚なスープが、僕の使い古された喉を洗った。

店主の優しさが、僕の全てを潤した。



そして、不意にあふれ出した涙が僕の仮面を洗い流した。



ピエロの化粧が落ちる。

ぽたり、ぽたり。

それは、ラーメンのスープに混じっていく。

構いやしない。

汗も汚れも、ついでに化粧も、全部が身体中から溢れ出し、下に落ちる。

ぽたり、ぽたり。

僕はそれら全てを飲み干した。

ごくり、ごくり。

最後の一滴まで、残さぬように。

ピエロであった自分の形跡を、決して残さぬように。





ぐしゃぐしゃの顔を店主に向け、僕は地面に額を擦り付けた。





土下座程度で伝わる思いではない。

しかし、僕はそうせざるを得なかった。

それしか、手段を知らなかった。

僕は何度も何度も声にならない感謝の気持ちを叫び、額を床に打ち付けた。





昨日のピエロは、もういない。

随分、久しぶりに“笑った”気がした。


完。


banner2.gif にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

2009.03.26 Thu l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

コメント

コメントの投稿












       

トラックバック

トラックバックURL
→http://hungry1spice.blog25.fc2.com/tb.php/93-f9e77a8e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。