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お題「毒薬」「貝殻」「主人」

まとまりきれていないのはいつものこと。

通常通り。

どうぞ。
私は今晩、主人を殺す。

この毒薬を使って。

浮気者で酒癖も悪い。

機嫌が悪ければ暴力も振るう。

全く、よく今までこうして我慢してこれたものだ。

我ながら関心する。

でも、そんな苦痛の日々もこれで終わりだ。

彼が帰ってきたら、晩酌用のお酒にこれを一滴たらせばよい。

それで全てが、全てが終わる――。



あぜだらけの腕を一目見て、思わず視線を逸らした。

付き合い始めの頃、彼が褒めてくれた白い肌も、今では見る影も無い。

私はため息混じりに、毒薬の入った小瓶を棚上に置くと居間に戻った。

ソファに座り、昔を思い出す。

彼がまだ優しく幸せだった日々のことを。

いつかはきっとあの頃のように戻ってくれるはずだって。

そう信じていたのに……。



初めてのデートは海だった。

夏の暑い日、私は焼けるのが嫌だからとずっと日傘の下にいた。

それでも彼は楽しそうに笑っていた。

そういえば、あれも初めてだ。

あのデートの日。

私は彼から初めてプレゼントをもらった。

どこかで拾った綺麗な貝殻をネックレスにしてくれた。

とても安上がりで、けれど、この世でたったひとつの、私のためだけのプレゼント。

それが嬉しくて、私は――。



思い出すのはよそう。

辛くなるだけだ。

けれど、最後に。

そう思って私は大事にしまっておいた貝殻のネックレスをもう一度だけ見ようと思い、立ち上がった。

引き出しを開け、それを取り出す。

はらりと、1枚の紙切れが落ちた。

なんだろう、と思い手にとる。

そして、私は不覚にも泣いてしまった。

その紙には彼の字で、こう書かれていた。





このネックレスをまだ持っているとは思わなかった。

僕は君に辛い思いばかりさせてきたというのに。

僕はどれだけ君に愛されているのかに気づかなかった。

ただのバカだ。

ごめん。





こんなことで彼を許してしまう自分が憎い。

憎くて、憎くて。

でも、やっぱり私は彼が好きなのだ。

一般的に見れば、酷い男なのかもしれない。

一般的に見なくても、酷い男なのだろう。

けれど、彼は私の主人で、私の大好きな人なのだ。



なんだか変にすっきりした私は、あの毒薬を捨ててしまうと思い立つ。

同時に、電話が鳴った。

何気なく、それを取り、結果として私の思考は停止した。










彼が死んだ。

会社で自殺をしたらしい。

遺書は、たった一言。



自宅の引き出しに。



それだけで充分だった。

あの手紙。

あのあっさりとした謝罪文。

あれが遺書だったのだ。





震える手で受話器を下ろした後、私は例の毒薬を手に取った。

ごくりと一飲み。

そうして、すぐに意識を失った。


私は、どうしようもない女なのだ。


どれだけ彼に傷つけられても、彼の優しい一言で、ころっと彼を許してしまう。

そんな彼が私を置いて死んでしまった。

これで平穏な日々が訪れるはずなのに。

それなのに、私にはそれができない。

彼がいない日常が、残念ながら私には理解ができないのだ。

彼の後を追う。

そんな私の行動は誰にも理解できないかもしれない。

ようやく解放されたというのに……。

と思うかもしれない。

けれど、そうはいかない。

私は、やっぱり彼が好きなのだ――。










最後に、私はどうしようもない女であったと、改めて付け加えておく。



なぜなら、自宅の引き出しにある彼の遺書とは、私の見つけた手紙とは別物だったからだ。

彼の部屋の引き出し。

そこに長い、とてつもなく長い遺書が発見された。

9割方が私への謝罪。

そして、震える文字で以下のように締めくくられていた。





これまで、ずっと君を悲しませてきたことを後悔している。

できることなら、もう一度君を抱きしめ、君を笑顔にしたい。

けれど、もう僕にはそんな資格など無いのだろう。

なぜなら、僕は知っているからだ。

君が僕を殺そうとしていることを。

君がわざわざ僕なんかのために、その手を汚す必要はない。

君は綺麗な手のまま、幸せを掴みとってくれ。

本当にすまなかった。

どうか、どうか、幸せに――。





私は、とてつもなく、果てしなく、どうしようもない。



完。


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2009.03.24 Tue l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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