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お題「ゲームボーイ」「百科事典」「マウスパッド」

うん。

結構嫌いじゃない感じ。

ある程度はまとまったんじゃないかなぁ。

どうぞ。
先日、妻が死んだ。

結婚して、まもなく1年が経とうというころだった。

――交通事故。

何の前触れもなく、さらには覚悟もできないまま、彼女は逝ってしまった。



彼女とはいわゆる幼馴染という関係だった。

本当に小さい頃から一緒に遊んだ仲で、お互いの良いところも悪いところも全て知りつくしていた。

遺品の整理をしていると、埃だらけのゲームボーイが出てきた。

これは僕たちがまだ小学生に入るか入らないかくらいだったころ、一緒に遊んだものだ。

彼女の家はそれほど裕福ではなかった。

ゲームボーイを買って欲しい、と頼むことができなかったらしい。

だから僕のこのゲームボーイを交代で使って遊んだのだ。

1人は操作をし、1人は画面を覗き込んだ。

今思えば、そっちの方が1人1台ずつで遊ぶよりもずっと楽しかったように思う。

懐かしいというよりは、こんなものを彼女がまだ持っていたことに驚き、それからやはり淋しくなった。

これを手に嬉々と笑う彼女の顔が頭をよぎる。

僕の操作を見ながら、小さく感嘆を挙げた彼女の声が耳奥で聞こえる。

お互いの顔が近づきすぎたのか、僕の頬にかかった彼女の吐息が蘇る。

もう、この機械にはぬくもりなんてない。

ただ冷たい。

冷たい、遺品だった。

必死に涙を堪える。

明日もまた仕事だ。

目を真っ赤にして会社にはいけない。

と言っても、僕の仕事はプログラマーだ。

多少目が赤いくらいなら、画面を睨んでいたと言い訳もつく。

そう考えて、少し気を緩めるとはらはらと涙が落ちた。

情けない。

残された僕が強く生きなくてどうする。

僕は乱暴に涙を拭うと、ゲームボーイの埃を落として、それをどこかにしまおうと歩き回った。

ふと、彼女の本棚に目が留まった。

そこにはたくさんの本が置かれている。

彼女は読書家だった。

というより、僕が仕事で忙しいせいで、彼女は1人でもできる趣味を考えた末、読書にたどり着いたのだ。

こうなるなら、もっと彼女とデートをすればよかった、と思いながら視線を上から下へと移す。

上の段には文庫本や新書といった比較的薄いものが立ち並んでいるが、下に行けば行くほどいかにも重そうな分厚い本が増える。

最下段は百科事典が並んでいた。

こんなもの普段読むのかは分からないが、彼女は楽しそうに言ったのだ。



「いいの。こういう誰も手につけないようなものなら、その裏にへそくりとかを隠していてもばれずにすむじゃない」



たいした期待もせずに、僕は百科事典を手に取った。

ずしりと重い。

彼女が本当にへそくりを隠していても構わない。

何も隠していなくても構わない。

僕は彼女の言葉にすがったのだ。

きっと彼女の形跡を見つけたかったのだろう。





はたして、僕の淡い願いは叶った。

見覚えのない包装紙が百科事典の裏から出てきたのだ。

引っ張り出してみると、それは下敷きくらいの薄さのプレゼントであった。

表には、「一周年記念!」と書かれている。

裏には――。



僕の名前が書かれていた。



一周年記念とは、つまり結婚して、ということだろう。

ということはこれは、僕宛のプレゼントか?

開けるべきか開けざるべきか。

逡巡はほんのわずかだった。

僕は包装紙を丁寧に開け、中に入っているものを見た。



そこには、マウスパッドが入っていた。



普段ずばらな僕はマウスを動かすときにマウスパッドは使わない。

机の上でも充分に動くからだ。

けれど、彼女はそれを知った上で、知恵を必死に絞り、このアイデアを思いついたのだろう。

マウスパッドと共に入っていた手紙には、こう書かれていた。



~~~



●●へ。

お仕事ばかりで最近私のことはほったらかしのようです。

少し淋しいですが、きっとあなたも同じ気持ちだろうと信じています。

だから、お仕事中でも私のことをずっと考えていてもらえるように、これをプレゼントします。

あなたがマウスパッドなんて使っていないのはしっています。

でも、今日からはこれを使ってください。



これからもよろしくお願いしますね。

○○



~~~



僕はマウスパッドに手を触れ、涙を零した。

先ほどとは比べ物にならないくらいに涙を流した。

声を上げて、泣いた。





マウスパッドに彼女の字でメッセージが書かれていたのだ。





“あまり無理はしないように”

“相も変わらず、私はあなたのことが大好きです”





僕はそれを握りしめ、ひたすらに泣いた。

泣いて、泣いて、泣いて――。

そして、決めたのだ。





たとえ、このマウスパッドを使っていくうちに

ゆっくりと彼女の文字が薄れていき、それと共に彼女の面影が消えていったとしても、

彼女が僕の傍に居続けてくれたことを決して忘れはしまいと。



完。


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2009.03.20 Fri l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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