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お題「洗濯機」「葡萄」「鍛冶」

毎度のことながら、時間制限って厳しいなぁ。

これはもう少し煮詰めればまともなものになっただろう感じ。

嫌いではない。

どぞ。
ひどく驚いた。

そして、それは相手も同じであるようだった。

私は刀鍛冶をやっている。

腕は二流から三流といったところ。

しかも、私は女なのだ。

それだけで、客足は遠のいていく。

今日も誰にも使われないであろう刀を打っていると、いきなり目の前に若い男が現れたのだ。

見慣れぬ服装をした奇妙な男だった。

彼は腰でもうったのか、その辺りを手でさすりながら立ち上がると口を開いた。

「ここはどこ?」

「え? ここは私の家ですけど」

どうやら言葉は伝わるらしい。

私はそれに安堵した。

「家って……。ん?」

男は何かに気づいたのか慌てて外に飛び出した。

しばらく辺りを凄い勢いできょろきょろと見渡した後、くるりと振り返った。

「ここはどこ?」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



聞けば、彼はこの世界の住人ではないらしい。

にわかには信じがたい話だけれど、一応納得した。

なぜなら、最近は大きな戦のために年頃の男性はほぼ全員が戦場に行っているはずで、

こんなところに彼のような男がいるわけがないからだ。

「なんで、ここに来たの?」

「なんでって言われてもなぁ。俺が聞きたいくらいだよ……」

彼はう~んと唸って、それからぽんと手をたたいた。

「なんか目の前に亀裂みたいなのが開いていてさ、それに触れようと手を伸ばしたら吸い込まれちゃったんだよね。なんていうんだろう。洗濯機の中みたいに視界がぐるぐる回って――」

「センタクキ?」

聞きなれぬ言葉に私が首を傾げると、彼は困ったように頬をかいた。

「なんていったら良いのかな。洗濯はするよね?」

「うん。あれで」

私はいつも使っている板を示した。

洗濯はあれを使って、ごしごしとやるのだ。

「俺の世界で、その洗濯をする機械が洗濯機っていうんだ」

「ふ~ん」

いまいち想像はできなかった。

ここにある板より遥かに上等なものであるような気がした。

彼は大金持ちなのかもしれない。

着ている服の生地も、私なんかでは一生かかっても買えないかもしれないくらい高価なものにみえた。

「それで、君は何を? まぁ、見ればわかるっちゃわかるんだけど」

彼は部屋中に散乱している刀を見つめ、苦笑交じりに訊ねた。

「私は刀鍛冶なんです。刀を打つのが仕事です」

「刀、か」

彼は何気なく手近にある一振りの刀を手にとって、おお、と小さく唸った。

「刀って重いんだな。初めて持った」

「そうですか? うちで作っているのは軽いほうですよ」

「これで、軽いのか……」

彼は興味深げにそれを抜いた。

私の刀は歪な刃紋を描く。

父のように美しい刃紋にはならない。

いくらやっても決して父の刀のような刃紋にはならない。

それが不満だった。

「綺麗な刀だなぁ」

だから、彼がそう言ってくれたことがとてつもなく嬉しかったことは確かだった。

別に、それがどうだっていうことはないんだけど。

「良かったらあげる」

「え?」

彼が手に持っているのは、私の一番の自信作だった。

「どうせ、売れないし」

「そう、なの?」

「うん。戦中なのにうちの刀は全く売れないの。だから、もらって」

「……分かった。でも、俺刀の使い方って全然分からないんだけど」

「ちょっとくらいなら教えられる。こっちに来て」

そうして私は彼を奥の部屋に連れて行った。

そこは昔、私が父から剣術を習ったときに使っていた道場がある。

私はそこで彼にちょっとだけ剣術を教えてあげた。

今日はもう店じまいで良いよね。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「きつすぎる……」

彼は汗だくになって床にばたりと倒れた。

「休憩しよっか」

私は倒れたままの彼を横目に道場を出て台所へ向かった。

と、そこで私は何者かに後ろ手をつかまれた。

口を塞がれ、身体を腕に押さえつけられる。

「静かにしてもらおうか」

顔を確認する事はできないが、どうやら軍人らしかった。

周りには2,3人ほどの仲間がいるらしく、手当たり次第にうちの刀を物色している。

どうせ他に客も来ないだろうと、戸締りを怠ったのがいけなかった。

「使えそうな刀だけもっていくぞ」

「しかし、隊長。ここの刀はどれも雑な出来で」

「あ? すぐ折れるものはいらんぞ。試しておけよ」

私の目の前で、刀が次々に折られていく。

そこにあるのは失敗作や昔作った刀たち。

もろいのは仕方がない。

だってそれは私がまだ未熟なときに作ったものだもの。

でも、でも。

仕方がないかもしれないけれど、それは私が作った大事な刀。

もう亡くなった父がまだ生きていた頃、私と一緒に作った刀。

それは、私と父の思い出なのだ。

静かに、とても静かに私の瞳から涙が零れた。

「これは良さそうですね」

棚の奥。

それは、だめ。

それは、父の最期の一品なのだ。

父の形見なのだ。

「ならば、それをもらっていくとしよう。いいか娘。これは戦のために必要な行為なのだ。恨むのは我らではなく敵国で――」

「何やってんだ?」

稽古の疲れでへとへとになって倒れていた彼がそこにいた。

彼は部屋の惨状を見渡してから、私に目を向けた。

床に散らばった折れた刀たち。

軍人が手にしている刀。

そして、軍人に羽交い絞めにされている私。

私の、顔。

瞳。

涙?

「よく分からないが、とりあえずその子を離してもらおうか」

「んん? まぁ用は終わったから構わんが貴様はなんだ。男子たるもの戦に――」

不意打ち、というのは1回目はうまくいく。

軍人の手が緩み、私が逃げ出した瞬間を狙って彼は斬りかかったのだ。

あろうことか、隊長、と呼ばれた軍人に。

「な、貴様!」

「何をしている!」

予想通り、残りの軍人たちが彼に斬りかかった。

素人の彼で勝てるはずが無い。

彼の振るった刀は虚しく宙を斬り、そして。



軍人が消えた。



きょとんとしているのは私だけではなかった。

彼もまた同様に、ぽかんと口を開けていた。

目をこらすと、うっすらと空間にきらきら輝く亀裂が入っているように見えた。

彼は不思議そうに首をかしげ、さらに刀を振った。

すると、やはり空間が斬れた。

そこに亀裂が入ったのだ。

彼は小さく頷くと、消えた軍人の足元であった場所に転がっていた刀を拾い上げ私に近づいてきた。

「生きているのはこれだけみたいだな」

「……え、うん」

「なぁ」

彼は私があげた刀をぎゅっと握り締めた。

「君の打った刀。後はこれだけになっちゃったけど、本当にこれもらってよいのか?」

「え?」

「……大事なものなんじゃないのか。君にとって刀って」

「そう、だけど。でも、良いの。それはあなたが持っていて」

確かに私にとって刀は大事だった。

私がつくったものは全部なくなった。

残っているのは彼にあげたものと、父が打ったこれだけ。

でも、なんだかそれで良い気がした。

彼が持っていてくれるなら、それで。

「じゃあ、ありがたくもらっていくよ」

彼はそう言って、再び刀を振るった。

やや大きめの亀裂が開き、彼は満足そうに微笑んだ。

「君の刀は良い刀だよ。俺が保証する」

それが彼の最後の言葉だった。

奇しくも、それは父の最期の言葉とそっくりだった。





「お前の刀は良い刀だ。私が保証する。だから、しっかりやれ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



彼が去った後、私は夢見心地のまま床にぺたりと座りこんでいた。

父の遺作を抜いてみる。

とても綺麗な波紋が飛び出した。

なんだか嫌に胸がどきどきする。

それが刀の美しさに飲まれたのか。それとも?

私は思い切り首をぶんぶんと振るった。

違う。

それはない。

だって、彼は刀の振り方さえ知らなかったではないか。

だって、私はずっと父のように強い人が好きだったではないか。

だって、私はずっと傍にいてくれる人じゃないと嫌だと思っていたではないか。

彼のように急に現れて急に消えてしまうような、そんな男にまさか……。



小さい頃、母親に読み聞かせられた物語があった。

“すっぱい葡萄”(注1)。

それが刀の重みを越えて私の両手にのしかかった。



完。

(注1)たしかイソップ童話。


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2009.03.18 Wed l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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