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お題「戸棚」「蛙」「約束」

ん~。

これはちょっとなぁ。

どうぞ。
その戸棚を開けてはいけない。



それが、我が家に代々伝わる“約束”であった。

なぜ開けてはいけないのか。

その理由は分からない。

開かずの間ならまだ話は分かる。

そこで自殺者が出たとか、あるいはもっと非現実的にみれば何か不吉なものが封じ込められているとか。

しかし、戸棚だ。

開かずの戸棚など、どんな三文小説だろうか。

これをテーマに話を書けという方が無謀と言うものだ。

だが、私は書かねばならぬ。

開かずの戸棚の噂を聞きつけた某出版社のバカな編集者があろうことか私にそれをテーマにひとつ物語でも書いてくれというのだ。

全く勘弁して欲しい。

しかし、今は仕事が喉から手が出るほど欲しい時期でもあった。

だから私は断りきれずに、その仕事を受けたのである。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



予想通り、筆は一向に進まなかった。

もともと、このような下手すればファンタジーにとられかねないようなものを主題とした話を書くのは得意ではないのだ。

ああ、困った。

私は頭を抱えてひとしきり唸った後、思いがけぬアイデアが浮かび小さく声を上げた。

思いがけぬ、というのはいささか間違いであったかもしれない。

ただ考えないようにしていたことを実行に移そうと思っただけだ。

それを考えないことは自然であり、前述の言葉を借りるなら約束であったからだ。

ファンタジーを書くのは苦手だ。

しかし、それが現実に起こったことであったらどうだろう。

事実を事実として描くことになんの苦労があろうか。

私は意を決して戸棚を開けることにしたのである。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


よもやこのような事態になろうとは、数分前に戸棚を開けようと決意した私を、

いや、そもそもこの仕事を引き受けた私を力ずくでとめてやりたい。

ああ、全く未来とは予想だにしないことの連続だ。

戸棚にはどうやら呪いが仕込まれていたらしい。

開けた瞬間、浦島太郎の玉手箱よろしく煙がもくもくと立ち込めた。

ただ浦島太郎と違う点がある。

私の記憶では彼はお爺さんに……ん? 鶴になったという話もあったかもしれない。

どちらにしろ、私はそういった類のものに変わったわけではなかった。

あろうことか、私は蛙になったのである。

例えば、これが悪い魔女によって蛙に変えられた美形の王子様あたりならば、一本物語が書けそうなものだが、

いかんせん現実は、戸棚の意味の分からない呪いによって蛙に変えられた半ニートの没落小説家である。

しかも、筆のもてない小説家。

ああ。

人間とはいやに冷静なものである。

私が真っ先に心配したのは、元に戻る方法ではなく、そちらだったのだ。

依頼された仕事が完成できない。

これでも小説家の端くれである。

それくらいのプライドはある。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



さて、蛙となった私だが、前より大してあったとは思えないが、今となっては大したことあったのだろうと思える自分の脳みそとの差に愕然とした。

蛙の頭は小さい。

元に戻る方法を考えようにも一向に何も浮かばないのだ。

何たる醜態か。

しかも、徐々にだが言葉も忘れ始めているような気がする。

これはまさか、このまま蛙になってしまうというオチなのではあるまいか。

ああ。なんという不覚。

グレゴール・ザムザの気持ちが少しだけ分かった気がした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



まずいことになった。

どうやら私は、もう元に戻らなくても良いかと思い始めているようだ。

このまま蛙でも良いかもしれない。

慌てて首を横に振り、人間としての威厳を取り戻そうとする。

しかし、見ろ。

この手を! そして、足を!

私はもはや、ただの蛙ではないか。

蛙ではないか。

かえるでは、ないか。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



かえる。

かえる。

かえる。

わたしのなまえは、かえる。

……。

ちがう。

かえるではない。

わたしは、わたしは……?



わたしは、にんげんだ!!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



だれかがいえにやってきた。

どこかでみたようなひとたちだ。

ああ、あれはわたしがにんげんだったころのかぞくたちじゃないか。

かぞくたちはとまどったようなかおをしている。

なぜなら、れいのとだながあいているからだ。

つまはおそるおそるといったふうになかをのぞきこみ、そこがただのとだなであることをかくにんしてぱたりととじた。

せつな、わたしのしかいがふっとんだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



目覚めると、私は布団に寝かされていた。

どうやら身体は元に戻ったらしい。

寝汗はひどかったが、私は急いで戸棚へ向かった。

家族たちの心配そうな顔など見もせずに戸棚に向かう。

そして、戸棚を力いっぱい――



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



学習能力がないとはこういうことなのだろう。

今度は家族をも巻き込んで一家全てが蛙になってしまった。

ああ、私は何をやっているのだろう。

先ほど、あんなに人間に戻りたいと願っていたことを忘れてしまったのか。

その望みが叶ったというのに、それを自らの手で壊してしまうとは。

ああ、このままあの戸棚が閉まらなければ、私たちは――。



台所で夕食を作っていた妻が、床に飛び降りてきて私の顔に水をかけた。

怒りを表しているのだろうが、そんなことをしても意味はない。

今の私の面は蛙なのだ。

面だけじゃない、もはやわたしはかえるだ。

どんなしうちにあっても、なにもかんじはしない。

わたしたちは、かえるになるのだ。

かえるに。




完。


※一応、解説を入れると、「蛙の面に水」でオチがついているはず……。ついているのかなぁ。しかし微妙な出来だな。


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2009.03.17 Tue l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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