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お題「看板」「過去」「ビデオデッキ」


ビデオデッキか。

まさかこの数年で、ビデオがなくなって、

あんな薄っぺらいものに取って代わられるとは予想だにできなかったよなぁ。

ファミリーコンピューターからPS3まで知っている世代だからなぁ。

科学の進歩ってすごいなぁ。

どうぞ。
「あなたの悩み、解決します」

大仰にもそう看板を掲げた店に俺がやってきたのはほんの出来心だったと思う。

俺はつい先日、愛する妻を亡くした。

「早く結婚しよう」

「できるだけ長く一緒にいたい」

と文字だけ追えばただの我儘にもとれるそんな彼女の言葉に押される形で、俺たちは結婚した。

彼女の願い通り早いうちに結婚していて良かった。

短かったけれど、できるだけ長い結婚生活を送ることができたから……。



これが“悩み”と呼べるものかは分からない。

けれど俺の足は自然とその店に吸い寄せられていったんだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「いらしゃいませ、お客様」

恭しく挨拶をしてくれたのは、まだ若い女性だった。

身なりはとてもきちんとしている。

どこぞのお屋敷で働いているといわれても信じるくらいだ。

「あの、悩みを解決するっていうのは……?」

「はい。当店はお客様の悩み事を解決するお手伝いを致します」

「はぁ。具体的には、どのように?」

「そうですね。では、とりあえずお客様のお悩みをお聞かせ願えますか?」

にこやかに笑う女性を前に俺は話を始めた。

妻が死んだことを。

そして、できればもう一度妻に会いたいことを。

妻の笑顔が見たいことを。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「かしこまりました。では、これをどうぞ」

「これ、は?」

「ビデオです」

「そうですよね」

「あちらの個室でご覧ください」

「ええ?」

言われるがままに通された部屋は、いわゆるネカフェの個室のような場所であった。

そこには一台のテレビがあり、そこでビデオを見ることができるらしい。

「この時代にビデオデッキかよ……」

俺はぶつくさと文句を言いながらビデオをセットした。

再生。

画面は真っ暗のまま。

不審に思ってテレビに近づいたときだった。

「うお!?」



俺はテレビに吸い込まれた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



吸い込まれて出てきた場所は街中であった。

微妙に違和感を覚えるが、俺が住んでいる街だと思う。

「どういうことだ、これは……」

きょろきょろとあたりを見渡すと、数ヶ月前に潰れたコンビニがあることに気づいた。

「あれ? 確かあそこは?」

そこで、俺は違和感の正体に気がついた。

この街は数年前の街とそっくりなのだ。

そっくり、という言い方のは間違っているなのかもしれない。

しかし数年前のことだ。

そんな過去の記憶が鮮明に残っているはずがない。

不確かでも仕方がないではないか。

だから敢えて“そっくり”と言わせてくれ。



多分、ここは数年の街なのだろうけれど。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



問題は、もう一つあった。

どうやらここの人たちには俺の姿が見えないらしい。

もしも、この時代の俺に出会ってしまっては厄介だから、それはそれで好都合だ。

と思った自分の首を絞めてやりたいと思うのは、高慢だろうか。



俺は数年前の妻の姿を見つけることができた。



けれど、どうだ。

こちらがどれだけ声をかけても、どれだけ触れようとしても彼女は俺には気づかない。

そして、この時代の俺に会うために待ち合わせ場所に向かう。

ああ。

これでは、さらに苦しいだけだ。

どうして、どうして、これでは――。

そこで、俺は思い当たったのだ。

俺はあの店でなんと言った?



できればもう一度妻に会いたい。

妻の笑顔が見たい。



ああ。

俺の言っていたことは叶ったではないか。

彼女は俺を見つけて、嬉しそうに笑いながら手を振って駆けていっているではないか。

その笑顔を一瞬でも良いから俺に向けてくれと願うのはエゴなのだろうか。

あちらにいるのも確かに俺で、ここにいるのも俺に違いない。

そのジレンマがもどかしい。



彼女の笑顔を見たからだろうか。

俺の身体は透け始めた。

元の時代に戻るのだろう。

どうせ聞こえないなら最後に。

そう思って俺は大声を張り上げた。



「愛してるっ!」



彼女が振り返ってくれた気がした。

けれど俺の意識は既に消えかかっていたため、きっとあれは願望が見せたただの覚なのだろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「いかがでしたか?」

「……うん。ありがとう」

「いえ。お客様に喜んでいただけて光栄です」

店を出て家路へと着く。

妻は居ない。

たった1人の家へ。



元気そうな彼女を見ることができて良かった。



そう思うと同時に、胸にまだしこりがあるのに気づく。

ああ、俺の悩みはまだ消えていない。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



家に帰り、上着を脱ぐ。

こんなにも殺風景な部屋だっただろうか。

俺はため息まじりに机の引き出しを開けた。

そこには彼女の写真が入っているのだ。

過去の彼女に会ったからだろうか。

もう一度、彼女の顔が見たくなってその写真を取り出した。

「……ん?」

引き出しに写真以外のものが入っていることに初めて気がついた。

「封筒? こんなもの入れたっけ?」

首を傾げながら封を切る。

中に入っているのは手紙のようだった。

それを開いて驚愕する。



懐かしい、妻の字だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



すみません、あなた。

どうやら私は死んでしまったようですね。

実はいずれそうなってしまうことは薄々気がついていたのです。

あなたは笑うかもしれませんが、私は未来のあなたに会ったことがあります。

あれは数年前のことで、場所はあなたとのデートの待ち合わせ場所でした。

あなたと並んで、いざ歩き出そうとしたときに、不意に誰かに呼ばれた気がしたのです。

振り返ってみると、そこにもあなたがいるじゃありませんか。



しかも、情けないほどに悲しそうな顔で――。



そのときに気づいてしまったのです。

そのあなたは、今のあなたと比べてそれほど年齢が変わっているとは思いませんでした。

だから多分、私は近いうちにあなたを置いて死んでしまうのだろうと。

あなたの顔はそう物語っていました。

そこで私は決めました。

あなたとすぐにでも結婚しようと。

あなたはやや呆れ気味に聞いていましたが、それでも私の願いを受け入れてくれました。

本当に嬉しかった。

できるだけ、できるだけ長い時間をあなたと過ごしたかった。

そして、それは叶いました。

私の我儘を聞いてくれてありがとう。

私は幸せでした。

普段は面と向かって言うことはありませんが、あなたは数年前に人目を憚らず大きな声で言ってくれましたね。

だから私も文字ではありますが、数年越しにあなたにはっきりと伝えます。



「愛しています」



だから幸せになってください。

さようなら。

ごめんなさい。

ありがとう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



涙は止まらなかった。

写真の彼女に触れ、俺はむせび泣いた。

彼女の喪失は俺に消さない何かを残したけれど、

俺は彼女の分も生きていかなくちゃいけないと思った。




完。


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2009.02.27 Fri l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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