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お題「箱」「歌」「米」

オチは投げっぱなしみたいだけど、私の中ではきちんと落としたつもり。

どうぞ。
彼は歌が好きだった。

あまり上手ではなかったけれど、その歌はなぜか私の心にしみこんだ。

歌っているときの彼の顔はとても楽しそうで、私も嬉しくなった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「2、3年ほどアメリカ(注1)に行くことになった」

彼に突然そう言われたのは、付き合って3年ほど経ったころだと思う。

そろそろ結婚を、と考えていた私にとって寝耳に水の話だった。

しばらくロスの支社で勤務することが決まったらしい。

当初、私は彼についていきたいと思っていたが、

私にも私の仕事がある。

今辞めてしまうと、いろいろと迷惑がかかるかもしれない。

それに、彼は言ってくれた。

「戻ってきた結婚しよう」

だから私は彼のその言葉を糧に1年間の遠距離恋愛を了承した。

たった2,3年。

長い人生のうちのたった2,3年だ。

それくらいは我慢できる。

だって大人だもの。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



私は飽きもせず、毎月、いや毎週のように手紙を送った。

彼からもきちんと返事がくる。

慣れない生活で大変だとか、食事は日本の方が美味しいだとか。

そういう話もしてくれる。

もちろん、淋しかった。

でも、その手紙を何度も読み返しながら、私は耐え切った。

そして、手紙を溜めていた箱がいっぱいになったころ、彼の帰国が決まった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



帰国の日、私は空港で彼を待っていた。

呆れるくらいにそわそわしていたと思う。

良い大人だというのに、思春期の高校生かというくらいにドキドキ、わくわくしていた。

待ち望んだ彼にやっと会える。

これからはずっと彼に甘えられる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



幸せの絶頂から絶望の淵に転がり落ちると、案外痛くない。



よく分からないまま、お葬式に出席した。

そして今、私は彼のお墓の前にいる。



飛行機事故。



それが私に突きつけられた現実だった。

彼のお墓に向かって語りかける。

「……本当に、死んじゃったの?」

答えは、もちろんない。

「……もう会えないの?」

返事は、もちろんない。

「……そっか」

私は線香をあげて、目を閉じた。

彼の笑顔が瞼の裏に蘇る。

ああ。

それは3年前の彼だ。

今の彼はどんな風になっているのか、それをきちんとこの瞳に収めることはできなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



歌が聞こえた。

はっとして目を開けるが、誰も居ない。

誰も居ないが、分かる。

この歌は、彼の歌だ。

下手くそだけど、私が一番好きな歌。

ああ。

そこに居るんだね。

あなたはそこに居るんだね。

本当に。



本当に、死んじゃったんだね……。



痛い。

痛い。

痛い。

やっぱり痛いよ。

ようやくやってきた痛みは、身体中を貫いていった。

一滴も流さなかった涙がとめどなく溢れる。

涙を必死に拭いながら、私は墓石に手を触れた。



あたたかい、彼のぬくもりを感じる。



そのまま私は墓石に耳をぴったりと押し当てた。

歌が聞こえる。

涙で濡れながら、嗚咽混じりに、声が枯れるまで、私は彼と一緒に歌った。





歌声は天に昇る――。



完。


(注1)アメリカ=米国


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2009.02.25 Wed l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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