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お題「御守り(お札)」「大陸」「歯」


うん。

シーズンだしね。

受験生がんば。
――2月某日。

入学試験当日。

冬の寒さが身に沁みる今日。

ここにも1人の受験生がいる。

彼女が狙う大学は成績から言って厳しいところである。

担任にも親にも反対された。

賛成してくれたのは、ただ1人。

彼女の兄だけだった。

「まっ、当たって砕けろって言うからな」

「何それ」

家をでようとした彼女を見送ったのは、その兄であった。

「お前の成績じゃ、駄目ってことだ」

「……少しは歯に衣着せてよね」

「甘えたこと言うな」

兄がわざとそう言ったことには気づいている。

彼は面と向かって素直に応援してくれるような人ではない。

受験に賛成してくれたときだって、そうだった。

「受けたいところを受ければよい」

今になって思えば、それは賛成してくれたとは言いがたい言葉だった気もする。

けれど、彼が毎日のように近くの神社に行き、自分のために合格祈願をしていたことも知っている。

だから、彼女は彼のふざけた叱責に笑って答えた。

「今からって時に士気を下げるようなことを言うからでしょ?」

「ま、確かにそうか。……じゃあ、これ」

そう言って彼が差し出したのは御守りだった。

「何、これ?」

「作った」

「作った?」

「うん」

「私のために?」

「うん」

彼女はそれを受け取って、まじまじと眺めた。

不器用な兄が作った不恰好な御守りだった。

「あんまり、じっと見つめるな。恥ずかしい」

「……変な形」

「う」

「ありがと」

彼女はそれを大切そうにポケットに入れ、ドアに手をかけた。

その背中に、兄の声が降りかかる。

「行って来い。お前が誰よりも頑張っていたのは俺がよく知ってる。大丈夫」

彼女は振り返らずに、ほくそ笑んだ。

普段の兄からは想像できない、若干歯が浮くようなセリフだ。

「どうも」

ドアが閉じると同時に、彼女はそうつぶやいた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



試験会場に入り、彼女はぐるりと辺りを見渡した。

知っている顔はない。

教室の空気も高校とは全然違う。

見知らぬ土地に放り込まれた感じだ。

けれど、別段不快ではなかった。

よく言うように、不安と緊張、それから期待が入り混じった。そんな感覚。

新大陸を発見したコロンブスも、こんな気持ちだったかもしれない。

彼女はそう考えながら、兄からもらった御守りを握り締めた。

絶対に受かってやる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ただいま……」

「おかえり」

彼女を出迎えのはやはり兄であり、彼は彼女がすっかり落ち込んでいるのを見て心配そうに口を開いた。

「駄目、だったのか?」

「うん」

「全力は尽くしたか?」

「うん」

「そうか」

「でも、全然歯が立たなかった」

「そうか」

「うん。やっぱり私には無理だったんだよ。」

しょげ返る妹を前にして、兄は逆に笑顔を浮かべた。

「ま。それなら仕方ない。ただ1つだけ言っておく」

妹は無言のまま兄を見つめた。

彼は人差し指をピンと立て、言い切った。

「あれこれ考えても無駄だ。果報は寝て待てってな」

「……うん」

彼女は歯を食いしばり、溢れ出そうともがいていた涙を堪えた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



――合格発表日。

「あれ、どっかいくのか?」

「うん。今日は合格発表日」

「ああ、そっか」

頷いて立ち去ろうとする兄を引き止めて、彼女は言う。

「何か、言ってよ」

「へ? 何かって」

「これから合格発表に行くわけだから、ね」

「ああ。そうだなぁ……」

兄は、う~む、とひとしきり唸ってから、手を叩いた。

「結果はどうあれ、すぐに帰って来い。何でも好きなもの奢ってやろう」

「ほんと?」

「ああ。高いものは厳しいが、お前がこれまで頑張ってきた分くらいは返してやる。何か考えとけ」

「うん」

「じゃ、いってらっしゃい」

「いってきます」

彼女は兄からもらった御守りをポケットに忍ばせて家を出た。

景色はすっかり春の兆しを見せている。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ただいま」

「おかえり」

帰ってきた妹は、すぐさま兄の元に向かった。

兄は妹の顔を見るなり、何かに感づいたのか困ったように小さく微笑んで口を開く。

「それで? いったいリクエストは何なのかな?(注1)」

「ん? ……服が欲しい、かな」

「服? またそんな高そうなものを――」

妹は兄の腕に飛びつき、それから満面の笑みで答えた。





「入学式用のスーツ買って!!」



完。


(注1)「いったいリクエストは何なのかな?」→「いったいりくえすとは」→「いっ“大陸”えすとは」みたいな。はい、すみません。


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2009.02.14 Sat l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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