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お題「ダーツ」「吸血鬼」「骨」


ダーツは無理やり。

依然として難しい。

でも、楽しい。

楽しいのが一番。

では、どうぞ。
「大丈夫ですか」

そう声をかけてくれたのは、まだ若い娘だった。

私の無様な格好を見て、好奇の視線は向けても、手を差し伸べてくれるものなどいないと思っていた自分を殴り飛ばしたい。

「あまり大丈夫ではないようです」

私は立ち上がることもままならずにそう言った。

何分、ここは眩しすぎる。

危うく死ぬところだ。





そんな奇妙な出会いを通して、私は彼女と知り合った。

まさか人間に救われるとは想像もしなかった事態だ。

しかし、思いのほか、人間も悪くないのかもしれない。

いや、悪いやつが多いのもまた事実か……。

何せ、人間に殺されかけたことなど数え切れないくらいある。

今だって、私は人間に襲われたのだ。

人を襲う吸血鬼など、たかが知れているというのに。

全く彼らは野蛮だ。





拾ってきた私を部屋に入れ、彼女は嘆息した。

「あなた、羨ましいくらいに白い肌ね」

「そう、かな」

そもそも吸血鬼は皆、青白い肌だ。

私たちは闇を好み、闇に生きる種族。

肌が黒くなる理由がない。

「それで、あなたはいったいなんで地面に倒れていたの?」

「それ、は……」

説明するには、自分が吸血鬼である、と名乗る必要がある。

目の前にいる彼女が、私が吸血鬼であるといった瞬間、手のひらを返す可能性も否定できない。

だから、私は押し黙った。

「ふ~ん。別に良いけど」

私の様子を見て何かを思ったか彼女は興味なさげに言った。

「とりあえず何か食べる? 簡単なものなら作れるわよ。骨が折れそうなのは勘弁してね」

「え? ……では、いただきます」

殊勝にも私は彼女に頭をさげた。

それは、彼女を騙していることへの謝罪を強く含んだものだったと思う。

「じゃ、ちょっと待ってて」

そう言って台所へ向かう彼女を見送って、私は部屋を見渡してみた。

1人暮らしには充分過ぎる広さのある部屋だ。

壁にはポスターや写真、それから1人遊びでもするのか、ベッドの上に座ってやればちょうど良い高さだろうという位置にダーツの的がかけられていた。

家具は少ない。

殺風景な部屋だ。

人間の女性の部屋には初めて入ったが、こんなものなのかと思う。

ただ少しだけ違和感がないことはない。

我々には必要のないものだが、人間にとっては重要であるはずのものが……・。

と思って首を横に振る。

別に、それでも構わないではないか。

人それぞれだ。

だが、この程度なら我が家の方が豪華だな、としばらく戻っていない住処のことがふいに思い出された。

(あそこで骨を埋める覚悟だったというのに……)

興味本位で人間界へ向かったのが間違いだった。

もともとは交友関係を結びたかっただけなのだ。

子どものころから聞かされてきたように、人間は本当にひどい奴らなのかを確かめたかっただけなのだ。

で、これだ。

今ならはっきり言える。

人間は嫌いだ。

自分とは異なるものを徹底的に排除しようとする。

悲しいものだ。





「できたわよ」

と言って、彼女がチャーハンを持ってきたのと、部屋のドアが激しくノックされるのがほぼ同時だった。

「はーい」

彼女が玄関へ向かう。

私はチャーハンから漂うにんにくの香りに頬をひくつかせた。

ただ勘違いしないでもらいたい。

別に吸血鬼はにんにくが食べられないわけではない。

吸血鬼は人間よりも鼻が良いのだ。

だからそのせいで苦痛なだけであって、決して食べられないわけじゃ――。

「何なんですかあなたたちは!?」

彼女の声がして、私の思考は止まる。

奴らだ。

白木(ホワイトアッシュ)の杭と、銀製の武器を手に数人の人間が部屋に入ってきた。

私は差し出されたチャーハンを一気に喉に流しこんだ。

吐き気がする。

にんにくの匂いが口の中、そして鼻の中に広がった。

意識が吹っ飛びそうになるが、それを何とか抑える。

ああ、気持ち悪い。



しかし、これより美味いものを食べたことなどあっただろうか。



私は向かってくる奴らにダーツの矢を投げつける。

しょぼい武器だといってくれるな。

身近にあったものがそれだけだったのだから仕方ないだろう。

ただ、ダーツの矢とてあなどるなかれ。

顔付近を狙えば目くらまし程度にはなる。

「ちょ、ちょっと、あなたたち、やめなさい!」

彼女の戸惑いの声がした。

確かにそうだ。

ここは彼女の家だ。

これ以上、ここで暴れるわけにはいかない。

私は急いで窓に近づき、そこから飛んだ。

この部屋が何回にあるかなんて関係ない。

そう。

吸血鬼はこうもりになれるのだ。

私は太陽の下に飛び出し、瞬時に眩暈を覚えた。

まずい。

胃の中のものが押し出されてきた。

ふらふらと浮遊する私に向かって、銀ナイフが飛んできた。

いつもなら、軽くかわせただろう。

しかし、今はだめだっだ。

ナイフは骨に傷をつけたのではないかというくらいに深く腹部に刺さり、私は地面に落ちていく。

落下中、徐々に元の形に戻っていく自分の姿を見ながら、私は死を覚悟した。





無論、身体は動かない。

地面に叩きつけられて、身体中が痛いのだ。

何本か骨の折れる音もした。

ああ、このまま奴らに捕まり、あの忌々しい白木で心臓をひとつき、か。

「大丈夫!?」

だと思ったのに、最初に私の元にやってきたのはまたしてもあの人間だった。

「……ガ・・・…」

声が出ない。

私は彼女に何を伝えたかったのだろう。

「あなた、吸血鬼だったのね。なんでもっと早く言ってくれなかったの? そうすれば……」

彼女の後ろ、奴らが迫ってきている。

このままでは彼女も巻き添えに――。



「そうすれば、あなたを救う方法を考えることができたのに!」



巻き添えにするわけにはいかない。

人間は嫌いだ。

優しい顔をしていても、卑劣であるからだ。

人間は嫌いだ。

私が自分たちとは違うからといだけで、殺そうとするからだ。

人間は嫌いだ。

その笑顔の裏に何かを隠しているからだ。

だが、彼女はどうだ。

彼女も人間だ。

だが、どうしても私には彼女が奴らのように下劣だとは思えない。

あの料理は、そして、あの笑顔は、それから、この涙は。

果たして偽りなのだろうか。

否。

……否、であって欲しい。

私は彼女を庇うようにして立ち、そして、最期の言葉を口にした。

「ありがとう」

心臓に白木が打ち込まれた。

ああ。

薄れいく意識の中で、思う。

なぜ、私は「ありがとう」と言ったのだろうか。

私のためにに手を差し伸べてくれたことへのお礼か。

私のために料理を作ってくれたことへのお礼か。

私のために涙を流してくれたことへのお礼か。

いや、違う。

私は彼女の顔を盗み見た。

ああ。

その顔。

その顔は、何度も見たことがある。



私の仲間たちが死ぬ間際、そんな顔をしていた。



恐怖とも悲痛とも形容できぬ、そんな顔。

私は彼女に人間とは捨てたものではない、と教わったことに感謝したのだろう。










吸血鬼に会った。

それは、もう随分と久しぶりのことだった。

道端に転がっていた彼を見て、なんとなく懐かしい気持ちになったのは確かだった。

だから試しに、にんにくたっぷりのチャーハンを出すことにした。

彼は、それを全部食べきった。

一瞬自分の勘違いだったのか、と思ったけれど、彼の青ざめた顔を見て、ああやっぱり彼もまた吸血鬼なんだと悟った。

でも、彼はすぐに死んだ。



人間に殺された。



人間とは、果てしなく愚かだと思う。

そしてまた、吸血鬼も果てしなく愚かだと思う。

私がこちらに来てから、何人もの吸血鬼が殺されたのを見てきた。



だから何度も何度も、吸血鬼たちの世界に「人間は非道だ」という噂を流し続けたというのに。



それなのに、なぜこうしてまた吸血鬼はやってくるのだろう。

どちらも愚かで救いようが無い。

異なる種が相容れることなどないのだろうか。

こうして自分の正体をひた隠しにし、周りとあわせなければ生きていけない世界が正しいのだろうか。





外見だけ見れば、人間はまともに見える。

けれど中身を見れば、人間は狂っている。

自分の外見をまじまじと見ることのできない我々には、内の方がよっぽどよく見える。





人間は怖ろしい。





彼は気づいたのだろうか。

私の部屋に鏡が一枚もなかったことに。



物思いにふけっていた彼女は、ふと先ほど出会ったばかりの吸血鬼が飛び去っていた窓を眺める。

決して映らないはずの自分の顔が、ひどく醜く映ってみえた。



完。


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2009.02.06 Fri l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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