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お題「ドッグタグ」「心」「ブーツ」


これもまた、なぁ。

なんで途中でエンドが変わっちゃうのか。

もっと、幸せエンドになる予定だったのに。

時間内にまとめられなくなっちゃったから、急遽変更。

では、どうぞ。
ここは軍隊でもなければ、もちろん彼女が兵隊というわけでもない。

だから、それをドッグタグと呼ぶのはもしかすると語弊があるかもしれない。

首から下げられた薄いプレート。

そこには文字ではなく、数字の羅列が刻まれている。

「0204」

それが、彼女の名前だった。



錆びれた鉄格子に、腐りかけた壁。

硬いベッドに、質素な食事。

唯一、光の差し込む小さな窓にもきっちり鉄格子が取り付けてある。

彼女は、そんな部屋……いや、独房の中にいた。



彼女は死刑囚だった。



あどけないその顔は、彼女がまだ女性というよりは少女に近い年齢であることを物語る。

ベッドの上に体育座りをしながら、彼女はしきりに爪をいじっていた。

別にやることはない。

特にやりたいこともない。

だから、そんな手持ち無沙汰を解消するように彼女は爪をいじる。

けれど、そんな彼女にも唯一日課となっていることがあった。

それが、彼との会話である。



「調子はどうだ?」



看守である彼は、死刑囚である彼女にも気さくに声をかけていた。

規則では囚人との会話は必要最低限と決まっているらしいが、そんなものはお構いなしらしい。

「良くは、ないわね」

「だろうな」

「本当。こんなところにいると、身体より先に心が壊れちゃうわ」

「全くだ」

看守は鉄格子に背をもたれ、腰を下ろす。

彼女はそんな彼に近づくこともなく、依然として体育座りのまま会話を続けた。

「私、まだ死なないの?」

「詳しいことは、僕にもよく分からない」

「そう……」

「ああ」

看守は幾分声のトーンが下がった彼女を盗み見る。

とても、死刑囚となるような人物には見えない。



あの細い腕で。

あの頼りない腕で。

あの白く透き通るような腕で。



彼女は人を殺したというのだろうか。



「なぁ……」

「何?」

「君、本当に殺したの?」

それは、何度もしてきた問いだった。

「証拠がそうだって言っているんなら、そうなんでしょう」

「はぐらかすのはやめてくれ」

看守はため息混じりに言う。

一方の彼女は、そう返されたことが不服だったのか語気を強めた。

「何度も同じことを言わせないで。もしここで無罪を主張したら、私は釈放されるのかしら?」

「それは……」

「だったら、意味ないじゃない。……何を言っても」

それっきり看守は黙りこくった。

確かに、ここで彼女が無罪を主張することに何ら意味はない。

けれど、看守は彼女の口から聞きたかった。

「私は本当は無実なんです」

と。





「今日は天気が良いわね」

「ああ、快晴だ。雲ひとつ無い」

「あんな小さな鞄くらいしか通りそうにない窓でも、無いよりはましね」

「そりゃそうだ」

「せめて、景色が見れればね。あの高さじゃ覗くのも無理だわ」

「無茶言うな。それに例え背が届いたとしても鉄格子が邪魔で、充分に景色なんて見れやしないよ」

「それもそうね」

基本的には、たいした話などしない。

それが2人の関係だった。

看守と囚人という微妙な関係は、言わばあまりにも薄い氷上で成り立っているようなものだ。



彼女は本当にマスコミによって報道されているような殺人鬼なのか。

彼女は本当に裁判で宣告されたような殺人鬼なのか。

彼女は本当に死刑囚になるような殺人鬼なのか。。



そういった話は、あっけなく氷にヒビを入れる。





しかし、氷上の人間はそれに気づかない。

いや、敢えて気づかないふりをしているだけかもしれない。

人間とは、果てしなく無知であり、それでいて利口でもある。



そうして、彼と彼女は繰り返しヒビを入れ続ける。



それが割れたときに、何が起こるかは分からないままに。





「君の死刑の日が決まった」

看守は沈痛な面持ちで言う。

「そう」

味気ない返事が独房の中からした。

当初に比べて、すっかりやせ細った彼女だが、看守にはそれが返って美しく見えた。

相変わらず爪をいじるクセは続いているようだ。

「最後に、もう一度だけ聞きたい」

「どうぞ」

看守は鉄格子を掴み、かみ締めるように言った。



「君は、本当に彼らを殺したのか?」



果たして、氷が割れた。

彼女は力なく首を縦に振り、そして看守に視線を向けた。

「うん」

彼女はゆっくりと立ち上がった。

動いただけで、壊れてしまいそうなほど脆い彼女の身体が看守に近づく。



そして、彼女の手が初めて彼のそれに触れた。



その手は、異様なまでに冷え切っていた。

「殺したわ。私が」

その目は、異様なまでに燃え滾っていた。

そこには強い意志が浮かんでいた。

「私、ね」

彼女が手を離し、看守に背を向ける。

「こんな姿で死んじゃうんだね」

彼女は自分の頬に手を触れる。

肌はざらざらに荒れ、その手は直に骨を見るかのように細い。



「綺麗にお化粧してさ、髪もちゃんと梳かして、それから高い服着て、お気に入りのブーツ履いて……また、そんな風に過ごしたいな」



振り返った彼女は、やはり美しかった。

少なくとも、看守の目にはそう映った。

彼女が悲しそうに目を伏せ、再び鉄格子に近づいてくる。

「だから、ね」

その間から彼女の手が伸びてきて、看守の頬に触れる。

艶美な動きで、彼女の指が看守の首をなぞった。



――あれ。なんで爪だけこんなに綺麗なんだ? まるで何かを塗ったかのようにつや……



看守の頭に、そんな感想がよぎった。







死刑執行の日。

彼女は独房から出されると、そのまま執行場へと連れて行かれた。

空になったそこに足を踏み入れた看守は、彼女が残した手記を見つける。



――君の言葉に嘘はなかったらしい。悪魔め。



彼はそれをくしゃくしゃに丸めると、ポケットに詰め込んだ。

ついでに、窓の付近を入念に調べておいた。

問題は、ない。

取り付けなおした鉄格子にも違和感などない。



数時間後、看守はこっそりと刑務所から外に出た。

もう、そこに用はなくなったからだ。

彼女の死刑が無事に執行された、という話も耳に入った。





計画は無事、成功したらしい。





外では、道具を独房に投げ入れてくれた仲間が待っている。

看守だった男は薄く笑い、そして、変装をといた。






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2009.02.04 Wed l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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