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お題「砂糖」「カラス」「足」


難しい。

当初の予定とオチが変わってしまいました。


一応、注意としては若干気分を害する危険性があるかもしれません。

狂気系、鬱系が駄目な人は戻ってください。

描写は言うほど問題ないと思うんですが……。

それでも良い方はどうぞ。
長い、長い夢を見た。

それは、まだ僕らが幸福だったころの夢だ。

僕と彼女は、思春期にありがちな、ちょっと不器用で、でもそんなところがまた幸せな、

砂糖菓子のように甘い毎日を送っていた。



何かが狂い始めたのは、きっとあの事件からだと思う。

僕らの学校の生徒が1人、自殺した。

原因は不明だった。

けれど、それが彼女ととても仲の良い友人だったのだ。



その日を境に、彼女はゆっくりと、しかし着実に狂っていった。



「私のせいだ」

「私がちゃんと支えてあげていれば」

「私が、もっとしっかりしていれば」



彼女は、そんな風につぶやき出した。

僕とデートをしている間も、ときたま発作のようにそうつぶやく。

そのときの彼女はまるで別人で、僕は必死に彼女を取り戻そうと尽力した。



初めのうちは、声をかければ元に戻った。

「大丈夫?」といえば、「うん。ごめん」と答えてくれた。


つづいて、揺さぶらなければ元に戻らなくなった。

肩を揺さぶって声をかけると、「大丈夫、ごめん」と言う。


つづいて、ある程度の刺激を与えなければ元に戻らなくなった。

例えば、キンキンに冷えた烏龍茶を彼女の頬に当てると、可愛らしく「ひゃっ」と叫び、「ありがとう」と答えてくれた。


つづいて、大きな刺激を与えなければ元に戻らなくなった。

良心は痛んだが、彼女を引っ叩くと「大丈夫、ありがとう」と言う。


つづいて、僕の力では元に戻らなくなった。

僕の声も、僕の姿も、僕の全てが彼女の役には立たなくなった。

だからといって、彼女がずっと狂いっぱなしというわけではない。

僕の手に負えなくなっただけだ。



彼女は自然に任せて狂う時間と狂わない時間を繰り返した。





その日、彼女は狂っていなかった。

いつかのように柔らかく微笑み、僕と並んで歩いた。

どれくらいぶりのことだろうと思いながら、僕はその日のデートを楽しんだ。

このまま元の彼女に戻ってくれたら良い、という願いは、無残にも破壊される。

彼女の手によって。



別れ際、彼女は小さく笑って言った。

「これまで、苦労(注1)かけてごめんね。でも、これで終わりだから」

そう言って彼女は僕に背を向けた。

言葉の意味を理解しかねて、僕は足を動かせない。

これで、終わり……?

彼女の足は思いのほか速かった。

僕の思考が停止している間に、彼女の姿はすっかり見えなくなってしまっていた。

だから慌てて歩を進める。

そうしないといけない気がしたのだ。





彼女を見つけたのは河原だった。

てっきりまっすぐ家に帰ったものだと思っていたが違った。

こんなところで何を?

というのはすぐに分かった。



彼女が小さなカバンから取り出したのは、包丁だったのだ。



呆気にとられた僕は、それにすぐ反応できない。

「ちょっと!」

叫ぶ声は、届かない。

そう。

僕の声は、もう届かない。

ならば。

僕は突然のことに固まった足を地面から引っぺがして、彼女の元に駆け寄る。

僕に気づいた彼女は、こちらを見て口を開く。

「ごめんね。ありがとう。でも、安心して。私は、いなくなるから」

彼女の顔が狂喜に染まり、そして――。





僕は、彼女を殺した。





正しくは、僕は彼女を止められなかった。

僕の伸ばした腕は彼女の手に触れ、しかし包丁は止まらず、

結果、彼女の胸に突き刺さった。

なぜ、あのとき僕はすぐに彼女を追いかけなかったのか。

なぜ、あれほどまで思いつめていた彼女を救えなかったのか。

なぜ、なぜ……。





事情はどうあれ、僕は彼女を殺しのだ。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




目が覚めると、そこは病室だった。

身体と頭が重い。

横を見ると、彼女が静かに笑っていた。

僕が目覚めたことには気づいていないらしく、こちらには視線を向けない。

彼女は生きている……?

そして、その手には、包丁。





ああ。そうだ。

僕は全てを思いだした。

今のは夢だ。

そう、夢だ。

僕は、彼女を殺してなんかいない。







僕は彼女の手を掴んで、彼女を止めることに成功したではないか。

その結果、僕の手を振りほどこうと暴れる彼女を必死に止めようとし、それで逆に僕に包丁が突き刺さったのだ。

大丈夫。

僕は彼女の自殺を止められたんだ。





目覚める前の河原では。





さて、ここで問題だ。

では、目覚めた“後”の“病室”ではどうだろう。





答えは――。





彼女は包丁を自分の胸に突きつける。

白いシーツが、白い壁が、赤く染まっていく。

僕は目を閉じた。

これこそが夢だと願いながら。

そして、つぶやく。



「僕のせいだ」

「僕がちゃんと支えてあげていれば」

「僕が、もっとしっかりしていれば」



僕の顔が狂喜に染まり、そして――。





僕は彼女に殺された。



完。


(注1)「苦労」は「crow(烏)」にかけています。


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2009.02.03 Tue l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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