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お題「ゆりかご」「波」「領主」


~言い訳~

世界史は大学入試のときにセンターでとったので、そこそこ分かるのですが、

何分私は理系なもので日本史には疎い、と。

領主が出た時点で、封建制度とか領主・農民制度とかが頭に浮かんだのですが、

時代がちょっと……。

作中では、江戸時代を指定していますが、何かおかしな点があれば教えてください。

タイトルは、考えてない。

では、どうぞ。
何をとっても人並みだった俺だが、ある日唐突に変な事件に巻き込まれた。

事件、といっても俺以外にとってはほとんど無関係な事件だ。

もちろん、信じてくれなくてもいい。

俺だって半信半疑なんだ。


その日、俺は何気なく立ち寄った古本屋で本を漁っていた。

そして、とある本を開いた瞬間に吹っ飛んだのだ。

意識と、それから身体が。



およそ1000年前に――。



開いた本の内容が原因だったのか、どうやら江戸時代辺りに飛んできたらしい。

まだ領主と農民という支配・従属制度があった時代だ。

俺は、そんな制度の存在する時代に巻き込まれたのだ。





さて、そんな奇妙な事態に陥った俺を救ってくれたのは、ひとりの女性だった。

無論、農民の側の人間だ。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

言葉が通じて何よりだ。

俺は「大丈夫です」と口では言ったが、内心分けのわからないことばかりで途方にくれていたところなので、自分に話しかけてくれる人がいてくれて、とても有難かった。

そんな俺の心境を察したのか、彼女は、

「とりあえず、家に来ますか?」

と申し出てくれ、俺は大げさかもしれないが、彼女のことを命の恩人だとさえ思った。

見知らぬ時代に突然やってきて、混乱の真っ只中にいた自分に手を差し伸べてくれる人がいたのだ。

そう思っても仕方ないだろう。





彼女の家はとても質素だった。

領主からの年貢の取立てが厳しく、生計を立てるのが困難だと言っていた。

ただ、それを聞いて俺に何ができようか。

何もできない。

それが結論であり、それで終わりだ。

そのはずだった。





やることもないので、俺は彼女らと共に働きながら数日を過ごした。

事態が動いたのは彼女の領主という人物に初めて出会ったときだ。

思ったより人の良さそうな人で、新顔の俺を見ても特に咎める素振りは見せなかった。


さて、問題はそこではない。

俺は気づいたのだ。



彼女と領主の間にある淡い恋心というやつに。



身分違いの恋か。

まるでドラマみたいだな、と思いながら俺はため息をついた。

ドラマではきっと上手くいくようにできているんだろうが、現実問題として身分の違いというのは俺の想像より遥かに高い壁のはずだ。

彼女らの恋が叶うはずがない。

叶えてあげられるはずがない。

そう。

俺は月並みな人間なんだ。






と思いつつも、俺は彼女から(ちゃっかり)本音を聞きだした。

彼女は照れながらも、しっかりと彼のことが好きだと言った。

片方の想いが分かれば、もう片方の想いも確かめなくてはいけない。

だが、問題の領主である彼と口を聞くには意外に労力が要った。

身分の差というのはやはり大きい。

それに、彼女に止められたのだ。

「あまり波風を立てないでください」

と。

領主は彼だけではない。

彼に不躾な質問をして、他の領主が黙っているはずがない。

もし、そうなって今より厳しい生活を強いられてはもう耐えられない。

というのが彼女の言い分だった。

もっともだ、と思う。

領主に向かって、

「あなた、農民の娘が好きなんですか?」

などと聞けるはずがない。

全く恐れ多い話だ。





しかし、チャンスというものは転がってくるものだ。



思い当たる節はないが、きっといつぞやの善行が実を結んだんだろう。

なんと彼の方から俺に接触してきたのだ。

「君は、彼女の家に厄介になっているようだが、彼女とはいったいどういう関係なんだ?」

それが、彼からの問いだった。

これは決まりだ、と思った俺は彼に事情を説明した。

行く場所がなくて、しばらく世話になっているだけだ。

あなたが思うような関係ではない。

だから安心してくれて良い、と。

俺の答えに対して、領主は、

「安心、とはどういう意味だ、全く……」

とぼやいたが、その顔が安堵に緩んだのを俺は見逃さなかった。





しかし、事はそう平和的に進まない。

今度もまた思い当たる節はないが、きっといつぞやの悪行が神にばれたのだろう。

それからすぐに、彼女の心配事が的中したのだった。

彼の仲間だという領主が数人、家に乗り込んできた。

「貴様が、彼を愚弄した娘か――」

「農民風情が領主に近づくとは、いったいどうした了見か――」

「こちらは、ゆりかごから墓場まで面倒をみてやっているというのに、そんな態度では――」

口々にそう言い、彼女を捕らえようとした領主たちの前に立ちはだかったのは本能だったのだろう。

俺は、なぜだが彼女と彼に幸せになってもらいたかった。

それはただ単に彼女が俺の恩人だからではない気がした。

もっと、こう……。

そんなもやもやした感情の中、俺は領主の1人に殴られた。

血の味がした。

だが、殴られたことで吹っ切れた。

現行の法律なら、正当防衛だ。

今の時代なら?

そんなことは知らない。

とにかく俺は彼女の恋路を邪魔してはいけないと思ったのだ。





結果として、この件は良い方向に解決しなかった、というべきなのだろう。



俺は散々に痛めつけられ、とうとう彼女が奴らの手に……。

といったところで、彼がやってきた。

「その手を離せ!」

なるほど。



全くヒーローは絶妙なタイミングでやってくるものだ。



ヒーローはヒロインの手を掴むと、颯爽と逃げ出した。

領主たちが後を追おうとするが、それを食い止める男がいた。

そう、俺だ。

並々ならぬ力を振り絞って俺は領主たちにすがりついた。

蹴飛ばされ、殴られながら思う。

裏で活躍する脇役がいてこその、主人公だと。

たまには、スポットライトの当たらない脇役にも注意を払ってくれ。





さて、そんな風にボコボコにされた俺だが、何故か彼女たちと再会することができた。

農民にカモフラージュした彼と顔を布か何かで隠した彼女が、もう動けないほどに痛めつけられて、地面に寝転がっていた俺の前に現れたのだ。

「逃げなくて、良いのかよ?」

喋りにくいことこの上無かったが、俺はそう訊ねた。

すると、彼と彼女が頭を下げたではないか。

「ありがとうございました」

俺は小さく笑って、それに応える。

「失礼でなければ、お名前を」

彼がそう訊ねるので俺は腫れ上がった口を無理やりに動かして名乗った。

時代が時代なので、彼女にも下の名前しか教えていなかったのだが、

俺はこのとき、フルネームで名乗るべきだろう、と直感的に思った。

俺が自分の名前を告げると、彼が妙な顔をして首をかしげた。

農民に苗字があることに驚いたのか、それとも――。

身体中の痛みに耐え切れなくて、意識が消えていく寸前のことだ。

俺は聞いた。

彼の名を。







気づくと、俺は古本屋にいた。

持っていた本は床に落ちている。

俺はそれを拾い上げ、棚に戻した。

江戸時代の時代小説。

俺は、その中に入り込んでいたのかもしれない。

と思ったのも束の間、そんなことがあるはずはない、と自嘲する。

自分に呆れて首を振りながら店を出ると、いきなり外の風にふかれた。

思いのほか冷たいそれに頭が冴えたのか、ひとつのことに思い当たる。



俺が彼女と彼をなんとしてでも結ばせたかった理由。



行き着いた答えに対して、俺はため息混じりにつぶやいた。





偶然だよな、と――。


完。


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2009.02.01 Sun l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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