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お題「こけし」「アンドロイド」「体温計」


アンドロイド、と出た時点でありがちな物語しか浮かばない浅はかさ。

タイトルは、まぁ、なし。

では、どうぞ。
彼女は、あまり自分のことをしゃべりたがらない。

しかし、特にそれを気にしたことはなかった。

全てを知った今となっては、僕のそんな性格にどれだけ感謝してもし足りないくらいだ。



僕が彼女と出会ったのは、ある雨の日のことだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



数日続いた雨は今日も地面を濡らしている。

たまには太陽の光を浴びたいな、などと考えているとき、僕は彼女に出会ったのだ。



彼女は雨の中、傘もささずに、その場に立ち尽くしていた。



雨が彼女の服を濡らし、そして肌が……。

僕は無意識のうちに視線を逸らした。

こっちは健全な男だ。

興味がないわけない。

けれど、僕はそれを見てしまってはいけない気がしたのだ。

見てしまえば、何もかもが壊れてしまう気がしたのだ。





「何、やってるんですか?」

できるだけ視線を外しながら僕が問いかけると、彼女は機械的に首を動かした。

綺麗な顔だが表情がない。

「風邪、ひきますよ」

何度思い返してみても、キザなことをやったと思う。

僕は傘を彼女の手に無理やり握らせると、颯爽と(もちろん、わざとそう見えるように)立ち去った。

「……あ」

と彼女の声が聞こえた気がした。

けれど、そこで振り向くことはない。

なぜなら、僕は自分の行為によって顔を真っ赤に染めていたからだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



彼女と次に出会ったのは、それから3日後のことだった。

僕はすぐに彼女に気づいた。

彼女は明らかに周りから浮いていたのだ。

他の人間とは一線を画した存在感。

僕は彼女をちらちらと見ながら、その前を通り過ぎる。

と、突然服の裾をつかまれた。

「あ、あの……」

「な、何?」

「これ……」

彼女が突き出したのは、あの日の傘だった。

「あ、ありがとう、ござい、ました……」

「い、いえ。どういたしまして」

それがキッカケとなって、僕と彼女の付き合いは始まった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



彼女は元々、あまり口数が多いほうではなかった。

けれど、話しかければ答えてくれるし、相槌もうってくれる。

決して無愛想な方ではなかった。

僕は彼女といるととても楽しかった。

そう。

僕も、もう良い年齢だ。

常々、子どもは2人くらいは欲しいと思っていたので、そろそろ適齢期だと思っていた。



つまり、僕は彼女と結婚したいと思っていたのだ。



そんなことを暗に含めて彼女に言うと、

いつも彼女は困ったような顔を浮かべるのだった。

そこに違和感を覚えなかった、ということはない。

でも、そこまで深く考えなかった。

結婚といえば、人生において一大イベントだ。

もう少し、時間をかけても構わない。

僕は、そう思っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



彼女は、僕におごらせてくれない。

デートに出かけても、絶対割り勘だし、プレゼントもただでは受け取ってくれない。

僕がサプライズでプレゼントを用意すると、彼女はそのお返しといって、手料理をふるまってくれたり、部屋の掃除をしてくれたりする。

そんな彼女の態度に、いささか不満があったことは否めない。



僕だって、彼女に良い格好がしたいのだ。



ある日、そんな風に彼女に言うと、また彼女はいつものように困った顔をし、それから何かを閃いたのか僕に1つのお願い事をした。

それが、また奇妙だった。



彼女は僕に、こけしをねだったのだ。



なぜ、こけしなのか。

それはよく分からなかったが、あの彼女が僕に物をねだってくれているのだ。

僕に断る理由などない。

僕は早速、彼女にこけしを買った。

どうやら彼女はそれをとても喜んでくれたらしく、部屋の良く見える位置に飾ってくれていた。

暇さえあれば、こけしをなで、幸せそうに微笑む。

そんな彼女が、僕は大好きだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



幸せ、というのは、後から考えてそうだったと分かることが多い。

僕もまた、そうだった。



別れの時は突然訪れた。



彼女が倒れたのだ。

息も荒いし、顔も赤い。

これは風邪だと思い、僕は慌てて彼女に体温計を差し出した。

すると、彼女はやんわりとそれを否定し、悲しそうに言った。

「体温計じゃ、測れない」

意味が分からず問い質すと、彼女は自分を“アンドロイド”だと言った。

この熱は体内から産生されている熱だという。

自分は、もう寿命が近く、そのためにうまくコントロールができなくなっているらしい。

今は、いわゆるオーバーヒート状態だと言った。

「黙っていて、ごめんなさい」

彼女は苦しそうに続ける。

「あの、こけしは、あなたが、持っていて、くだ、さ、い」

僕は頷く。強く、強く頷く。

「そ、れ、か、ら……」

彼女の声が、機械化されていく。

ああ、彼女は本当にアンドロイドだったのだ。

「わ、た、し、は、し、あ、わ、せ、で、し……」





――その笑顔は、人間よりも人間らしかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



彼女を失った僕に残ったものは、例のこけしだった。



ここで1つ、言っておかなければいけないことがある。

結局、このこけしも彼女への“ただ”のプレゼントにはならなかった。

彼女はまたも、お返しを用意してくれていたのだ。

こけしを重石代わりにして、1枚の手紙が残されていた。

そこには、こう書かれていた。



私には、あなたの願いを叶えることができません。

私は、あなたと結婚できません。

私は、あなたの子どもを生めません。

私は、あなたを幸せにはできません。

……だから、あなたは別の誰かと、お幸せに。



手紙に、歪な水玉模様が彩られていく。

僕は涙を拭おうともせず、こけしをぎゅっと握り締め、そして、気づいた。





こけしは子どもの健康な成長を願うお祝い人形だ、ということに。


完。


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2009.01.31 Sat l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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