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お題「不老不死」「ろうそく」「水」


ん~。

今回はえらげに注釈なんぞを付けてみた。

すみません……。

何も考えずに突然出したわけじゃないんですよってことが言いたかっただけです。

タイトルは、

『神の領域』

では、どうぞ。
「不老不死?」
 俺は、やつの言葉に耳を疑った。
「そう。僕は不老不死の薬を作ることに成功したんだ。けれど、どうやらそのことが政府にばれたらしい。頼む。かくまってくれ」
「と、言われてもな」
 まず、こいつが政府から追われているのが本当ならば、それをかくまった俺は大罪になるだろうし、それより何より不老不死の薬自体あるのかどうか疑わしい。
「不老不死ってなんだよ」
「僕はずっとそれの研究をしていたんだ」
「寝耳に水だな」
「それは、すまん。もし誰かに聞かれたりしたら、その技術を盗みにくるやつが現れるかもしれないと思って、極秘にやってきたんだ」
 一応、筋は通っているようだ。つまり、完成までは極秘に進めてきた研究が、完成と共に政府側に発覚した、ということだ。
「頼む。もう僕は背水の陣という状況にいるんだ。お前しか頼めるやつがいない」
「だがなぁ……。ひとまず証拠を、そうだな、その薬ってやつを見せてくれないか?」
「あ、ああ」
 やつが取り出したのは小瓶に入った透明な液体だった。申し訳ないが、ただの水にしか見えない。
「これが、そうなのか?」
「ああ。動物での実験では成功が確認された。実験体ラットは、どんな怪我をしても瞬時に回復するし、試験薬として最初に未完成の薬を投与したラットはもう既に5年は生きている。それからな――」
 まるで水を得た魚のようだ。自分の研究のことになると舌がよく回る。こうなるとすぐには止まらないかもしれないが、おかげでひとつの確信を得た。
「分かった、分かった。お前がそんなテンションになるってことは、信じるに値する話だってことだ」
「細胞を再生させる……お、そうか。ありがたい」
「で、かくまうって言っても、政府側が追っているなら、俺が力になれるかどうか……」
「大丈夫だ。お前に迷惑はかけない。やつらが居場所を付けとめたと感じたら、すぐに逃げ出す。だから、ちょっとの間で良いんだ」
「そうか?」
 ここまで言われて、友だちの、しかも、頼める奴がお前しかいない、とまで言ってくれるやつの頼みを断れるはずもない。かくして、俺はやつに寝場所を提供してやることにした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 それから数日は問題なく過ぎたが、ある日突然、やつはここを出ると言い出した。
「どうした? 別に問題はなさそうだが?」
「いや、どうやら感づかれたらしい。家の外にいる男。お前は気づいていないかもしれないが、多分政府の人間だ」
「何?」
 そう言って俺は窓を開けて外を見渡した。さっと身を隠す男の姿を確認し、慌ててやつの方を振り向く。
「マジかよ」
「そういうわけだ。世話になった」
 やつは荷物をまとめて、そそくさと出かける準備を始めている。俺は、おろおろするばかりで、どうすることもできない。
「ど、どうするんだよ?」
「とにかく逃げる。もしものときは、もしものときだ」
「というかさ、それを渡してしまうってのは駄目なのか?」
 その提案にやつは悲しそうに首を振った。
「いいか。不老不死ってのはメリットばかりじゃない。簡単に言うと、死なないってことは死ねないってことだ。もし、この薬が政府の手に渡ってみろ。世の中に不老不死の薬が蔓延してみろ。死ねない苦しみが、世界中に広がることになる」
「そんな予想ができているなら、なんでお前はそんな薬を作ったんだよ」
 俺の言葉に、やつは心底悲しそうな顔をした。
「つまり、どんなものも使い方次第だと思うわけだ」
「使い方次第?」
「ああ。不老不死になることで救われる人もいるかもしれないだろう。むやみに使ってはいけないけれど、特定の人には役に立つ。まぁ、そんな人がいるか分からないけれど……。でもな、この薬は本当に必要な人にだけ使ってもらいたいんだよ」
 そこまで言って、やつは不意に首を横に振った。
「こういうのを我田引水って言うんだろうな。真実は、僕という人間は研究という欲求に飲み込まれた愚者だということなんだろう」
「……」
「不老不死だなんて、人間が求めてはいけないものだ。と理解はしている。けれど、作れるなら作ってみたい、という知的欲求に勝てなかった愚者だったんだよ」
 おい、という間もなく、やつは窓から飛び出した。
「世話になった。また、どこかで会え……れば良いな」
 俺の手は宙を掴み、やつの背中は遠くへと消えていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……こりゃ、もう最終手段を使うしかないな」
 僕は息を切らしながら富士山(注1)に逃げ込み、1本の大木によりかかった。山紫水明。とても美しい景色の中に僕はいる。
 足音が聞こえ、人の声もちらほらと聞こえる。
「仕方ない。作ったやつが責任をとるのは当然だ」
 そして、僕は薬を一気に喉に流し込んだ。ごくり、ごくり、と。
「あぁ。飲んじゃった、か」
 覆水盆に返らず。
 不老不死の薬を飲んだことを後悔したのか、これを作ったことを後悔したのか、それとも研究者という職に就いたを後悔したのか、もしかすると、生まれてきたことに後悔したのかもしれない。
 僕は涙を零し、それから立ち上がって駆け出した。不老不死ならば足がちぎれても、腕が吹っ飛んでも、どこまでも走って逃げられるだろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 鬼ごっこは夜中まで続いた。
 あいつの家から借りてきた(もらってきた、いや、盗んできた)ろうそくに火をつけ、その小さな灯りをたよりに山を彷徨う。
 さすがに、足がちぎれたり、腕が吹っ飛んだりすることはなかった。もっとも、ちぎれたとしてもすぐに元に戻ったであろうが。
 そんな風に山中を逃げ惑いながら、僕は思う。

 全てが水に流せるのならば、許して欲しい。

 人の域を越えて、悪魔の薬を作り出してしまった僕の罪を、と。
 しかし、無常にも神はそれを許さない。背後に人の気配を感じたときにはもう遅かった。
 闇の中をちらちらと光る、ろうそくの火が仇になったのか、それとも神の領域に迷い込んだ僕に罰を与えたのか、僕は意識を失った。ああ、不老不死でも麻酔は効くんだな、という思いがぼんやりする頭をかすめた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 目を覚ましたとき、僕はこれまで感じたことのない痛みに胃の内容物を吐き出した。

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
 苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい。
 たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて。

 身体は動かない。けれど、何が行われているかは、よく分かる。
 
 
 僕が、ラットにしてきたのと同じことが、この場で行われているのだ。

 
 内臓を切り裂かれ、腕に細いナイフで数多の線を入れられ、幾種もの毒薬を投与され、生爪を1枚1枚はがされ――。
 あるいは、水中に何時間も沈められ、灼熱の炎の中に投げ込まれ、数百万Aの電流を流され――。



「我々は君に非常に感謝している」

 誰かの声が聞こえた。聞こえただけだ。

「自らの身体を実験体にし、まさに文字通り水火(注2)も辞さず我々に協力してくれるだなんて、全く君は研究者の鏡だな」



 これが僕の罪滅ぼしなのだ、と思う。
 
 “死んで罪を償う”か“死ぬまで罪を償う”か。

 重犯罪を犯した罪人は、概ねそのどちらかに身を委ねる。

 どちらを選んだとしても、僕は罪を償い終えることはない。 




 今日も僕は“死ねない”のだからっ!!




 完。


(注1)「竹取物語」において、かぐや姫が月に去った後、生きる希望を失った帝が富士山で不老不死の秘薬を焼いたことから。ちなみに、富士山という名は、この故事が由来になっている、と言われている(不死山=不二山)。
(注2)一応、「火」に「ろうそく」を軽くかけたつもり。



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2009.01.28 Wed l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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