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最終話更新です。

どうぞ。
異性と2人で歩くということに少々恥ずかしさもあったのだが、雪村さんと過ごすことで、それなりに女性に耐性もついたらしい。

私は天野さんと共に早坂の新しい彼女を購入し、彼の家へと向かった。

途中、さほど気まずくなることもなかったはずだ。

「あ、小日向君」 

という声をきくまでは、だ。

ぎょっとした、というのはいささか表現がおかしいだろうか。

声の主はもちろん彼女で、私は一瞬間唖然としてしまった。

いや別にやましい気持ちがあるわけではないので、大人しくしていれば良いのだろう。

何分このような状況になれていないもので変に舞い上がってしまうのだ。

落ち着くのだ、私。

そう言い聞かせながら私は雪村さんへと顔を向け、やぁ、と爽やかに挨拶を交わした。

彼女の視線がちらちらと私の隣に向かうのが分かる。

天野さんも興味津々といった風に雪村さんへ視線を送っている。

「えーっと、小日向君、そちらは?」 

先手を打ったのは雪村さんだった。

私はこほんと咳払いをすると同時に冷静さを取り戻した。

「こちらは、早坂の後輩の天野さんだ」 

私の言葉を追って、天野さんが頭を下げる。

「はじめまして、天野さくらです。お噂はうかがっています」

「噂?」

「ええ。小日向先輩にはとっても可愛らしい彼女が――」 

余計なことを喋られる前にとっさに口を塞いだ。

何やらもごもごと言っているが、それは気にせず、雪村さんへ苦笑いを浮かべてみせた。

「えーっと……と、ところで、こんなところで何をしているの?」

その反応はどう判断すべきなのだろうか。

先ほどの天野さんの台詞が耳に届いていないはずがない。

照れくささを押し殺したつもりの私は、どもりながら答えるしかない。

「あ、あまりにも馬鹿ばかし過ぎて、せ、説明する気もないのだが、いろいろ、あ、あったのだ」 

しかし、お互いに今はまだ追及すべきことではないのだと理解し合ったたらしい。

雪村さんは私のどもりっぷりにどこか安堵したような顔を浮かべたし、私はとりあえず話を元の軌道に戻すことにして、天野さんを解放した。

彼女はわざとらしくけほけほと言い、それからはぁ、と長い息をはいた。

「つまり、あれだ。いつものごとく、早坂絡みだ」 

それを聞いて雪村さんは納得したように頷いた。

なんとなく空気は元に戻った感じがする。

「ああ、早坂君絡みで」 

その頷きに同調して、天野さんも腕を組んでうんうんと頷く。

「ええ、早坂先輩絡みで」

こうして三者三様の形で首肯されてしまうところに、早坂の早坂たるゆえんがあるのだろう。

私たちはそのまま3人で早坂の家へと向かい、彼に彼女と装置を返し終えた。

彼女との再会はこちらの涙を誘うほどの感動っぷりだったが、この場にいる彼以外、彼の腕で安らかに微笑む彼女が以前の彼女とは違う存在であることを知っており、なんともいたたまれない気持ちになった。

無論、彼の腕に抱かれているのが以前と同じ彼女であったとしても、心が抉られるほど哀れな気持ちになっただろうことは言うまでもない。

心優しい雪村さんは何も言わず、朗らかに笑ってその滑稽な光景を見つめていたが、その隣の天野さんは露骨に不快感を表し、私はそっと目を逸らした。

正直に言おう。

さすがにその感涙っぷりは私でも引く。

良いか、早坂。

君が泣くほど愛している彼女は二重の意味で虚構なのだ。


~~


しかし、彼の二次元に対する愛は本物だった。

なんと、それから数日が過ぎた頃、早坂はついに二次元へと移転したのである。

彼から最後のメールが届いているのに気づいたのは、既に彼が行ってしまった後だった。

「小日向よ。君と過ごした数年間、本当に愉快だった。僕は心底感謝しているぞ。さらばだ、心友」

この喪失感と淋しさは多分、様々なことのあった秋が終わり、冬という季節を迎えたせいだろう。

携帯の画面が滲んで見えるのも、今日の天気が悪いせいだろう。

……そうだろう?


~~


果たして、その後発売されたとあるギャルゲのモブキャラに早坂という名の人物がいたことを明記しておく。

ちなみに苗字のみで名前は無いようだった。

そのキャラクターは容姿、性格ともに私のよく知る男に非常によく似ていた。

さらに右手に握る主人公からもらったという設定の懐中時計に、いやに見覚えがあるが、そこは触れてはならぬ気配がするゆえ、見なかったことにした。

二次元と三次元の次元を越えてまで使える言葉なのかは定かではないが、きっと他人の空似であろう。

なぜなら、早坂は私の無二の心友であるのだから……。

そうそう。空、といえば、今日の空も綺麗に晴れ渡っている。

私は待ち合わせ場所にぼんやりと立ちながら、青い空を見上げていた。

ふと、頬に冷たいものが触れた。

それは、なんと雪であった。

太陽の光の下、微弱ながら雪が降っているではないか。

日向に降る雪は幻想的で、私はしばしの間、それに見惚れた。
 
見惚れること数分、ふと私の視界の隅になんとも可愛らしい生き物が現れた。

無論、それは雪村さんであり、彼女は雪の降る中、くるくると愛らしく舞っているのだ。



彼女はきっと私を悶え殺す気なのだろう。



たちの悪い無邪気な殺人鬼は私に気付くと、手を降りながら近づいてくる。

ああ、私は今、幸せの頂にいるのだ。

にやにやしたせいで緩んだ私の唇に、不意にちらちらと舞っていた雪が触れた。

それはすぐに灼熱のごとく熱くなり、そしてすぐに、程よいぬくもりへと変貌を遂げたのだった。



了。


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~~~
お疲れ様でした。
全6話、全て読んでくださった方、ありがとうございます。
心からの感謝の意をここで示します。

これくらいの分量が一番書きやすいですね。
短編も好きですが……。

さて、次回作は「夢見る乙女は悪夢を見るか」を投稿する予定になっているようです。
ただ、あまり執筆がはかどっていないので、合間に短編とかぽろっと書いていくかもしれません。
ちょっとどうなるか分かりませんが、放置はしないよう頑張ります。

それでは、また。
ありがとうございました。



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2011.03.01 Tue l 連載小説 l COM(0) TB(0) l top ▲

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