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更新します。

つづきから、どうぞ。
私が駆け込んだのは、かの先輩の下宿先であった。

寮住まいである彼の部屋に侵入するのは意外に容易だった。

学生証を提示し、同研究室の後輩で忘れ物を取りに来たのだが鍵を忘れた、と言ったところでは追い返されたのだが、彼の部屋が1階にあったのが良かった。

裏に回り窓を確認したところ、なんと鍵が開いていたのだ。

無用心この上ないが、このような貧乏寮に忍び込む泥棒もいないだろうし、男の一人暮らしで防犯意識が薄いのも当然なのかもしれない。 

私は自分の幸運に感謝しつつ、彼の部屋へと忍び込んだ。

部屋は最後に掃除をしたのはいつなのかというくらい荒れていたが、目的のブツはすぐに発見できた。

部屋のど真ん中にある机にぽつんと残されていたのだ。

可愛そうに。

早坂の愛する人はお留守番らしい。

「……早坂」 

私は急いで彼女をこの腕に抱きしめ、そう独り言ちた。

すまない早坂。

君の彼女は真っ二つになっている。

しかし、一つだけ言わせてくれ。

これは救出の際の負傷ではないのだ。

私が助けに入ったときには、既に彼女はもう……。

憎き敵に陵辱され、見るも無残な姿へと変えられてしまったのだ! 

くっ、なんという悲劇か! 

彼女の笑顔が痛い。

これが心友の大事な人を守れなかった痛みか。


私は何も、何もできなかったっ!!


…………全く、何を阿呆なことをやっているのか。

部屋の真ん中で割れたDVDを抱きしめている男の図というのは、なんとも気色の悪いことだ。

はぁ……。

このため息は全ての諦めに相当するため息である。

仕方あるまい。

確かに、この件に関しては私の不注意がいけなかった。

あの時、私が身を呈してでも彼女を守っていればこんなことにはならなかったのだ。

そもそも私の自宅に先輩が尋ねて来た時点で何かおかしいと気づくべきだったのだ。

先輩の狙いは“次元移転装置”だったことは間違いない。

「早坂が研究室にいないのだが、ここに来ていないか」などと電話で聞けば済むようなことについて、友人を連れ立ってわざわざ尋ねに来るような時点でおかしいと気づくべきだった。

ついでとはいえ彼女を盗んだことだって、早坂に対する嫌がらせ以外に考えられない。

しかし、だ。

できるだけ穏便に済ませようとした私も私だが、無理やり部屋に押し込んできた相手の方が悪いだろうとは思う。

1対複数で、元々腕力に自信のない私に勝ち目があるはずないではないか!
 
遠く早坂に言い訳をまくし立ててからポケットに手をつっこんだ。

財布を開くと、ちらりと札が見える。

出費としてはなかなかに痛いが、早坂のおかげで雪村さんと親しくなれた、という恩もある。

これくらいは目を瞑ろう。

早坂よ――。

彼女の代わりなどこの世には存在しないのかもしれないが、すまない。

瓜二つの別の彼女で我慢してくれ。

今の私にはこれ以上の妙案は浮かばないのだ。


~~~


本当に、来た。

小日向先輩の言うとおりだ。

無から有が生まれる瞬間を目の当たりにし、早坂先輩は変人だが確かに才能は本物であると改めて確信した。

半信半疑で研究室に待機していた私の目の前に、ぐるりと現れたのは、例の“次元移転装置”を手にした先輩だった。

「君は、天野さんではないか」

「何をしてらっしゃるんで?」 

ここに私がいることに驚いたようだったけれど、いつもの何食わぬ顔で淡々と尋ねてきた。

だから私もできるだけ普通を装ってそう問う。

「あの阿呆がしでかした小火騒ぎのせいで私のパソコンがやられてな。それを取りに行っていたのだ」
 
彼は、手に持つ装置をなでながらそう答えた。

(なるほど――。小日向先輩、そういうことでしたか) 

私は小日向先輩の意図を理解し、口角をあげた。

危ない。

笑いそうになってしまった。

「取りに、ですか? ……あれ? そういえば、その装置はいったい?」 
 
私の演技に完璧に騙されているらしい先輩は心底嬉しそうに笑うと、手にもつ“早坂先輩の”装置を高々と掲げて見せた。

「そうだとも。これを使えば、なんと過去に戻れるのだ!」
 
その滑稽さにまた笑いそうになる。

知ってます。

けれど、我慢しないと。

「これはまたすごいものをお持ちですね」

「まぁな。私くらいの才能があれば、こんなもの朝飯前なのだ」

はぁ。

こんな阿呆な用事はさっさと済ませて、夕飯前には家に帰ろう。

「では、先輩。一度でよいので、私にも貸していただけませんか?」

「何?」
 
ここが、最も重要なシーン。

上目遣いがポイント。

……少し、早坂先輩の思考と似ている気がして自己嫌悪。

「私は先輩の才能に触れたいのです」

「……お、おお、そうか」
 
ちょろい。

「では、お借りしますね」
 
さっと、先輩の手から装置を奪う。

「ちょ、っと待て」
 
今更慌ててももう遅い。

私は急いで時計の針を回した。

吐き気が襲う。

私の意識は時計の針と同様に回転した。

ぐるりと。


~~~


時は、それから15分前に遡る。

汚い寮の部屋で待つ私の前に、待望の人物がむにょりと現れた。

「来たか、相棒」

「こんなことは夕飯前です」
 
さらっという彼女の手には、きっちりと次元移転装置が抱えられている。

「ごたごたが片付かないと、美味い飯が食えないからな」 

私はそう返して、入ってきた窓から外に出ようとする。

と、彼女が私の手のものに気づいたらしく、困惑気味に尋ねてきた。

「先輩、それは?」 

私は苦笑を浮かべ、肩をすくめた。

「残念ながら、早坂の彼女は……」

「彼女を救うために過去に戻りますか?」 

それは確かに魅力的な提案だった。

私の財布的にも。

しかし、私は首を横に振った。

「いや、私のようなちっぽけな器では、救う女は一人だけで精一杯だ」
 
そこで少し間が空いた。

私はどうやら彼女に引かれてしまったらしい。

似合わない台詞を真顔ではいたせいだろう。

「では、どうするのですか?」 

しかし、ありがたいことに彼女は特に茶々を入れずに続けてくれた。

胸をなでおろしながら私も話を続ける。

「これは私が償うとしよう」

「……そうですか、では、私も少しばかりご協力を」 

その提案に私は慌てて手をぶんぶんと振った。

「そういうわけにはいかない。これは元々私のせいなのだ」

「そもそも早坂先輩が自分で買いに行かなかったからこうなったのでは?」

「たらればを言っても仕方がないだろう」

「では、相棒として私にもご協力を」

「君は後輩だ」

「先ほど、先輩は相棒と呼んでくれました」

「ノリだろう」

「では、先輩。後輩として私にもご協力を」

「後輩にお金を払わせるわけにはいくまい」

「では、マスター。私にもご協力を」

先に窓から外に出た私は、彼女が地面に降り立つのを待ってから諦めを表すように、髪をくしゃりとやった。

「そのしつこさは賞賛に値するよ。仕方ない。では少しだけ貸してくれ」

「それで良いんです」 

彼女は満足そうににこっと笑うと、例の装置を指差した。

「この機械はどうします?」

「これも一緒にあいつに返そう。もう色々巻き込まれるのはごめんだ」 

そう言って向けた背に、彼女の声がかかる。

「ああ、そういえば、小日向先輩」

「なんだ?」 

この次元移転装置を手に入れてから、私の人生はころっと変わってしまっているらしい。

「さっきの台詞。ちょっぴり格好良かったですよ」


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~~~
次回、最終回。



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2011.02.26 Sat l 連載小説 l COM(0) TB(0) l top ▲

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