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更新です。

つづきから、どうぞ。
さて、雪村さんとのデートを終えた後、彼女とのメールの頻度も徐々に増えていった。

もはや、ただの友人よりかは親しい仲になったといえるだろう。

そんなこんなで私の頭には雪村さんのことしかなかったため、しばらく次元移転装置のことに加えて早坂のことなど忘れていたのだが、ある大事件が勃発したために私は久しぶりに彼と連絡をとるはめになった。
 
彼はどうやら自宅にこもっているらしく、私は彼の家へと自転車を走らせた。

彼の部屋は六畳ほどのよくある一人暮らし用の一室である。

本の量が凄まじいが、それ以外はいたって普通といって良い。

多分、押入れの中や、あの引き出しの中には、他人に見せられない“夢”がつまっているのだとは思うが。

「どうした、急に?」 

ノートパソコンをかちゃかちゃやっていた早坂は、その作業を中断してこちらを向いた。

デスクトップは例のアニメキャラクターだった。

私は相変わらずだな、と思うと同時に激しく自責の念に駆られ、即座に頭を下げた。

「すまない、早坂。例のブツ、盗まれてしまった」

「例の……というと、あの次元移転装置か!? それは困る!」 

早坂は見る間に狼狽を始めた。

「……すまない」 

しかし、私はそんな彼をさらに狼狽させてしまう一言を言わねばならぬのだ。

「確かにそれも盗まれたのだが、例のブツというのは別のものだ」

「別の……?」 

そう。彼にとって次元移転装置よりも大事な“あれ”を、私は……。

「まさか――!」

「ああ、君に頼まれて買いに行ったDVD付き初回限定版コミックのDVDだけを盗られた」

「君という人は本当に何をやっているんだ。次元移転装置よりもまず、そっちが優先だ。なんとしてでも取り戻さなくては!」 

この熱さを別の方向に持っていけないものか。

彼を前にして、涙を流しそうなほど悔しさに顔を歪める私にも同じ言葉をかけてやりたい。

……情け容赦ない罵倒の言葉をかけるのはやめてくれ。

「仕方ない。今から僕の後輩を呼び出すとしよう」

「後輩?」

「ああ、見込みのある後輩だよ」 

そう言って彼は携帯を開いた。

そもそもそんな後輩がいるのならば、私ではなくはじめからその人に頼めば良いものを……。

私は複雑なため息をついて、その後輩とやらが来るのを待ったのだった。

数十分後、眼鏡のよく似合う知的な美人が現れた。

どれくらい美人かというと、そんなものここで語っても仕方あるまい。

「おい。なんだ、この綺麗な人は?」

「彼女こそ、僕の右腕。さくらちゃんだ」

さくらちゃん……? どこかで聞いた名だ。

「さぁ、いつものようにマスターと呼んでくれたまえ」
 
ああ、なるほど。

私は彼のノートパソコンに視線を向けた。

彼女の名は、例のキャラクターと同じ名前なのだ。

「勘弁してください、先輩。私もそんなに暇じゃないんです」 

呆れ果てたように言う彼女を見て、僕の口をついて出た言葉は驚くくらい阿呆な問いだった。

「君、さくらというのか」

「残念ながら、間違いのない事実です。改めまして、天野さくらと言います」

「……早坂と出会ったのが間違いだったとしかいえないな」

「あなたこそ。聞いてますよ、いつも。小日向先輩」

「何、馬鹿騒ぎに巻き込まれるのは慣れてるさ」 

私はおどけて外国人がするように肩をすくめた。

彼女はどうやらそれがおきに召したらしく、くすっと笑った。

「さすが、本物の右腕は違いますね」

「あいつの右腕は君に譲るよ」

「勘弁してください、先輩。こんなかよわい腕じゃ、心もとないですよ」 

言われた私は運動不足がたたってあまり筋肉の付いていない腕を突き出した。

「私の腕よりは随分と魅力的だろう」

「新手の口説き文句ですか?」

「勘弁してください、後輩」 

そんな私たちの会話を、やや苛立った口調で早坂が制止した。

「おい君たち。イチャラブするのも良いが、早いとこ例のブツを取り戻す手助けをしてくれたまえ」

「おっと、そうだったな、早坂」

「全くだ。早々に協力してくれないと、雪村君に小日向が眼鏡美人にうつつをぬかしていたと報告してしまうところだ」

「勘弁してください、同輩」

「あら、先輩。彼女いたんですか」 

彼女と断言していいものかは困るが、私は曖昧に頷いた。

「次元は?」 

ああ、彼女は早坂の後輩だ。

私は苦笑を隠さずに答えた。

「大丈夫。私たちと同じだよ」

「それは良かった。先輩まで次元を越える気かと思いました」

「ある意味、次元は越えたけどな」

「え? ああ、四次元の方へ、ということですね」 

理解が早くて助かる。

「その通りだ。ところで早坂」

「なんだ?」

「お前のあれは、ひとつしかないのか」

「ああ」

「では、あれを使って逃げられたら捕まえられないではないか」

「それを何とかするのが、君たち右腕の腕の見せ所だろう」 

その傍若無人ぶりは、いったいどうしたものだろう。

今度は天野さんも同じように肩をすくめてくれた。

「なんと、めんどうくさいマスターか」

「うるさい、黙れ。そもそも君が盗まれたのが悪いんじゃないか」

「それを言われると……面目ない」

「罰として、雪村君をここへ呼びたまえ。人数は多い方が良い」

「嫌だ」

「なぜだ?」

「彼女までこんな阿呆なことに巻き込んでたまるか」 

隣で天野さんがうんうんと首を縦に振る。

「全くの同感です」

「君たちはマスターに逆らうのか」

「マスターならマスターらしくコーヒーでも淹れておいてくれ。とにかく雪村さんを呼ぶわけにはいかない」 

彼女にこのごたごたで無用な心配をかける前に、さっさと解決してしまおう。

私は隣の天野さんをちらりと盗み見た。

この利発そうな人物ならば、きっと大丈夫だろう。 

「とりあえず私は彼の家に向かおうと思う。天野さんは、研究室へ向かってくれ」

「研究室……ですか?」

「可能性の芽は摘んでおきたいタイプなのです」 

今の私の笑みは、正義の味方というよりは悪の魔王と言う感じだろう。なかなか気分が高揚する。

「コーヒー入ったが?」

道理で良い香りがすると思った。

このバカはこういうところが律儀で困る。

きっと、ただのボケなのだろうが。

「マスターはもう良いんで、それを飲みながら彼女と愛でも語らっていてください」

「把握した」 

そう言って早坂はノートパソコンに向き直った。

心底嬉しそうな顔をしている。

すまない、早坂。

ドン引きだ。

そんな私の服の裾を引っ張るものがある。

無論、このいたたまれない場に残るもう1人の人物だ。

私は彼女に向き直って、口を開いた。

「では、いきましょう天野さん」

「はい、マスター」 

そんな誰もが見惚れるであろう最高の笑顔をぶっ壊すように、私と早坂の声が不本意ながら重なった。

「君のマスターは私です」「君のマスターは彼です」

「……勘弁してください、先輩」

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~~~

多分、もう後半に入っているはず。
3月までには完結いけそうですね。
では、また。


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2011.02.13 Sun l 連載小説 l COM(0) TB(0) l top ▲

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