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「きたくぶ!」1話です。

初めての方は、この辺を見ていただけると尚嬉しいです。

三題噺とは。
「きたくぶ!」はじめに。
「きたくぶ!」あらすじと登場人物紹介。


では、つづきから本編始まります。
 葉月三高、生徒会長、一条ゆみこは困惑していた。

『本年度より、全生徒はいずれかの部活に所属すること』
 という校則に従い、これまでどの部活動にも所属していなかった学生および新入生が入部届けを提出してきた。
 のは良かったのだが、その中に4枚、彼女の頭を悩ませるものがあった。その4枚にはいずれも同じクラブ名が書かれていた。そう、クラブ名が書かれていたのだ。しかし……。
「……はぁ」
 何度目かのため息をついた後、無駄に長い髪を払い上げ、彼女は生徒会室を出たのだった。

 ところ変わって、2年1組の教室。2人の学生が教室の片隅でなにやらおかしなことになっていた。
「あ、あの……先輩?」
「何? 琴美ちゃん」
「いや、え、えーっと、え?」
「ふわふわ~」
 それは男子生徒と女子生徒であった。先輩と言われた男子生徒の方が、琴美ちゃんと呼ばれた女子生徒の髪の毛をいじりたおしているのである。傍から見れば、いや、傍から見なくとも変態行為の最中なのだが、男子生徒は全く意に介していないらしい。
 琴美の髪の毛は茶色がかったセミロングで、そのふわふわっぷりには定評がある。何を隠そう彼も、彼女自身の持つ愛くるしさに加わったこの髪のふわふわさ加減に惚れ込んだのだ。
「ぶ、部活の件なんですけど……」
「入部届け? ちゃんと出したよ?」
「い、いえ、会長が、なんか、怒ってました」
「……姉ちゃんか」
 彼はふわふわを満喫する腕を休め、ふむ、と思案顔になった。先ほどまでのにやにや顔は完全に消えている。少し迷惑そうだった琴美の顔がぼんやりと不服に染まるのにはお互い気づかなかった。
「文句を言われないために、琴美ちゃんを口説いてるんだけどね」
「……そうなんですか?」
「一言では説明できないところかな」
 そうして男子生徒が再び彼女の髪に手を伸ばしたときだった。教室の扉が勢い良く開けられ、禍々しいオーラを纏った女子生徒が入ってきた。

 一条ゆみこ、その人であった。

「おい、転校生。色々言いたいことがある、が、まずは変態行為をやめろ」
「失礼ですね」
「嫌がってるだろう」
「人の嫌がることはすすんでやります」
「調子に乗るな」
 男子生徒はにこりとも笑わずに琴美から手を離した。彼女は困ったように二人の顔を交互に見つめたが、最終的に彼の横から離れようとはしなかった。
「男嫌いの琴美がこうも簡単に毒牙にかかるとは……」
「人望のおかげですかね。次期会長に推薦してくれても良いですよ」
「断る」
「まぁ、“会長”に興味ないですけど」
 ゆみこは不機嫌な顔のまま彼に近づくと、その顔に入部届けをたたきつけた。琴美がひっと小さく叫ぶ。
「お前、最初から気づいていたがバカだな」
「そうですか? 僕はやりたい部活を書いたはずです」
「そもそもだ。部活動は生徒5人に顧問も必要だ。そこが分かってるのか?」
「分かってますよ。あと1人と顧問を探せば問題ないんですよね?」
 孝太郎の挑戦的な瞳に、ゆみこは唇の端をひくひくと動かした。
「それから、これが一番大事なことだ」
「何でしょう?」
「目的、だ」
「なるほど」
「この部で何をやるのか教えてもらおうか」
「良いですよ。一条先輩」
 そう言って、彼は入部届けを高々と掲げた。2年1組、椎名孝太郎。入部先は――

「僕はこの部に入部して、早めに帰宅して、家族にご飯を作るんです」

 帰宅部。

~~~

 そんなやり取りがあった翌日。2年1組。
「上坂はどーしたー? 椎名。お前聞いてるか?」
 朝の喧騒にまみれ、教室に入ってきた担任佐々木清孝は、空いている席を指差しながら孝太郎に尋ねた。
「一緒に登校してたんですけど『知的好奇心がぎゅんぎゅん!』って叫んで、いきなりヒッチハイクを始めて、どっか行きました。多分、僕が美味しいうどんを作ってみたいって話をしたんで、香川あたりまで行ってくれたのかと」
「お前もお前だが、あのメガネも相当だな」
「まぁ、仕方ないです。部活動ですから。後、師匠もメガ――」
「これで成績だけ良いんだから、扱いに困る」
 孝太郎の言葉を遮って諦めたようにため息をついた佐々木は、出席簿の上坂優人の欄に欠席の文字を書き込んだ。
「じゃ、ホームルームは終わるが、チャイムなる前には教室に戻れよー」
 そう言って彼は荷物をまとめて教室をのろのろと出て行った。担任のいなくなった教室は途端に騒がしさを取り戻す。
「今日もしっかり活動してるなぁ、優人は……」
 
~~~

 ピンポーン。
 一日中うろうろしても琴美に出会えなかった孝太郎は、彼女の友人から琴美が風邪を引いて学校を休んでいることを聞き出した。
 彼は、部活をすることを放棄してお見舞いに行くことを即決し、今こうして彼女の家の前に立っているのである。
「あらあら、いらっしゃい。椎名君、で良いのかしら?」
「はい、そうです。お見舞いに来ました」
「まぁまぁ、どうぞ」
 琴美のお母さんに招き入れられ、孝太郎は彼女の部屋へと向かう。
「入りますよ」
 ノックと共にドアを開けて中に入る。琴美はベッドにいるようだった。なんだか息苦しそうにも見える。
「……先輩、ですか」
「そうだ。先輩だ」
 孝太郎はベッドの脇に腰掛けると、汗で額に張り付いた髪の毛をそっとかきあげる。
「こういうときは、遠慮するんですね」
「遠慮と言うか、我慢、だな」
「そうですか」
 琴美は赤い顔を崩してふふっと笑った。孝太郎はお見舞いのジュースとプリンを机の上に置くと、楽になったら食べてくれ、と付け加えた。
「はい、いたただきます。ありがとうございます」
「……大丈夫なのか?」
「大丈夫です。基本的にあまり身体が強くないんですよ。毎年インフルエンザにかかるくらいに」
「それは結構すごいな」
「でしょ?」
 こほこほ、と可愛らしい咳が聞こえた。孝太郎は罰が悪そうに頬をかくと、おもむろに立ち上がった。
「長居しちゃ悪いな。そろそろ帰るよ」
「帰るんですか?」
「ああ。早く元気になって欲しいしな」
 そう言って立ち去ろうとした孝太郎の服の裾を彼女はぎゅっと掴んだ。彼が振り返ると、彼女はもじもじと俯いた姿勢で口を開く。
「……ねぇ、先輩」
「何だ?」
「先輩は、私に構ってくれます」
「好きだからな」
「……部員が欲しいから、じゃなくてですか?」
 顔を上げた彼女の顔は、風邪のせいか何か別の理由のせいか、少し涙目に見えた。そんな彼女を激しく愛おしいと思い、いつものようにくしゃくしゃとしてやりたい気持ちに狩られた孝太郎だが、そこはぐっと堪える。
「もちろん部員が欲しいという気持ちはある。そこで嘘はつかない」
「……」
「でも、お前が好きだっていうのも、嘘じゃない」
 孝太郎は優しく琴美の頭を撫でた。そして、伝える。
「一緒に“部活”やらないか?」
 
~~~

 放課後の生徒会室。
 一条ゆみこは暇を持て余すように、カタカタとキーボードを叩いていた。
検索ワード:人に言うことを聞かせる方法 人を呪う方法
「物騒なもの調べないでください、先輩」
「何の用だ」
 パソコンの画面から目を離さずに彼女は来客に問うた。来客は、先ほど琴美の家でお見舞いを済ませた孝太郎だった。
「お見舞い、行ってないんですか?」
「はぁ?」
「琴美ちゃんの、ですよ」
「私が行ったところで意味ないだろう」
 何を言っているんだ、こいつは、という意味を含んだ少し冷たい言い方だった。
「そういうところ、直した方が良いですよ」
「はぁ?」
「先輩、思ってるより好かれてますよ」
「他人の評価に興味はないな」
「そうですか」
 そこで、しばらく無言の時間が流れた。ゆみこがキーボードを叩く音だけが、静かな生徒会室に響く。
「……出て行くか、帰宅部辞めるか、どっちか選べ」
「じゃあ出て行きますよ。ご飯作らないといけませんし」
 孝太郎は腕時計で時間を確認すると、ゆみこに背を向けて生徒会室の扉に手をかけた。そんな彼の後ろから声がかかる。
「…………体調は、どうだった?」
「先輩に会いたがってましたよ」
「…………そうか」
「はい。じゃあ失礼します」
 扉が完全に閉まったのを確認してから、ゆみこは大きく伸びをすると、やれやれ、と大きめの独り言をつぶやきながら立ち上がる。
 その足取りは、ちょっぴり軽かった。

~~~

 場所は再び、霧枝琴美の家。孝太郎に言われたから、というわけではなく、あくまで自分の意思だが、ゆみこは彼女のお見舞いにやってきていた。
 琴美の部屋に通され、やや緊張気味の彼女はベッドの脇に座り込むと、ぽつぽつと口を開く。
「いや、お前が、その、会いたがってた、とか、な」
「……あ、はい。そうなんです。実は会長さんに渡したいものが」
「渡したい、もの?」
「はい」
 そう言って笑顔で出されたものに、ゆみこの顔が歪んだ。彼が何故お見舞いに行け、と言ったのか、その理由に気づいたのだ。
 琴美が渡したのは、1枚の用紙だった。ゆみこが最近よく見たものと同じものだ。
 そこにはこう書かれていた。

 入部届け。1年2組、霧枝琴美、入部先は「帰宅部」。

「…………あのバカやろう!!」
 どこかで“部長”の笑う声が聞こえた気がした。


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2011.02.05 Sat l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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