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さて、さて更新。

つづきからどぞ。
気づくと、先ほどまでいた何の変哲もない私の部屋だった。

しかし、この手に残る感触は紛い物ではない。

私は確実に時間と、それから空間を移動した。
 
ふむ、と思案にふけようと思い、思案にふけるならばコーヒーが必要だということで台所に向かったところ、私の携帯が自己主張を始めた。

びくり、と身体が小さく震えた。

先ほどのメーリングリストが思い起こされる。

「雪村さんが君を探している。何かしたのか?」
 
が、おそるおそる開いたメールは、予想とは違うものだった。

友人の1人からのその一報は、私の意識を“30分前”に引き戻した。

なるほど、未来は変わったらしい。

なんともまずい展開の模様だが……。

多分、雪村さんは先ほどのセクハラもどきのことで私を探しているのだろう。

さすがに雪村さんにそのように思われるのは好ましくない。

いやいや、それよりも彼女を辱めたことを謝罪しなくてはならないのだろうか。

「……ふむ」
 
そこで私は再び机の前に腰を下ろした。

そして、懐中時計の針を30分前にまき戻したのである。

私の意識は、やはりむにょりと揺れた。



「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

というついさっきどこかで聞いた断末魔の様な叫び声を頭上に聞いた。

見上げた空に、私は予想通り雪村さんを見たのだ。

ついで、例のむにょりという柔らかい感覚。

しかし、今度は本能の赴くままに揉んだりはしない。

私は紳士なのだ。
 
降ってきた雪村さんを支え、さっと立たせると、私は彼女とともに飛んできた自転車を起こしに向かった。

どうやら彼女の自転車のブレーキが壊れていたらしく、坂道で急加速した自転車が小石か何かに躓いた拍子に吹っ飛んだらしい。

「あ、あ……小日向くん」
 
その上、いきなり目の前に私が現れたのだ。

それは叫びたくもなるだろう。

「ありが、とう」

「いや、構わない。それより怪我はないか」
 
なんという紳士的対応。

その視線が2つの膨らみに向いていなければ完璧だったろう。

しかし、世の中に完璧な人間などいようか、いや、居やしまい!! 

私は人間として男として普通なのだ。

だからこそ――!!

「小日向くん?」

「ん?」 

いささか暴走していたらしい。

私はこほんと咳払いを一つすると、不器用ながらにこやかな笑みを浮かべた。

「ブレーキが壊れているみたいだ。修理に出したほうが良い」

「うん、そうだね」 

彼女はよたよたと私の方へ、すなわち自転車へ向かってくる。

少しばかり歩き方がおかしい。

ふむ、なるほど。

私はポケットをまさぐった。

出てきたのはハンカチとポケットティッシュ。

それから絆創膏が数枚。

用意周到な私を褒めて欲しい。

「膝から血が出ている。一応これを張って置いたほうが良い。できれば、すぐに消毒をすべきだろうが、さすがに消毒液は持ち合わせていない」

「あ、ありがとう」 

雪村さんは僕の手から絆創膏を受け取ると、はにかむように微笑んだ。

何ということだろう。

先ほど叫び声を上げていたときの形相とは違う、この笑顔。
 

私は確かに、この瞬間に恋に落ちたのだ。
 

元の時間に戻ると、やはり私の携帯がけたたましくなった。

送り主はやはり友人の1人で、内容もやはり、

「雪村さんが君を探している。何かしたのか?」
 
というものだった。

とりあえず、私は友人に「私は家に居る。良ければ彼女に私のメアドを伝えてくれ」という旨のメールを送った。

ここに下心があったことは言うまでもない。

客観的な時間にして30分前。

主観的な時間にしてつい先ほど。

私は彼女に恋したのだ。

想い人のメアドを知りたいと思って何が悪い。



律儀なもので、雪村さんはわざわざお礼を言いたい旨のメールを送ってくれた。

異性と2人きりで会うというのは期待半分、不安半分……。

いや、期待二分、不安八分というところだったが、もしやこれはデートと言っても過言ではないのではなかろうかという誘惑に負けた。

初デート前の女子中学生かというくらい服装に迷い、これ以上良くなるはずもないのだが、何かの願いを込めて鏡を覗き込む様は、とても他人には見せられない。

隠しカメラなど設置されていたら発狂ものだろう。
 
さて、そんな私だがとりあえず無難にまとめ、そわそわしながら待ち合わせ場所に出かけた。

遅れてはまずいと思い早めに出た結果、約束の時間よりも30分早く着いた。

遅れたら遅れたで良くないのだが、早ければ早いでよろしくない。

1番の問題は、雪村さんの到着を待っている間、いったい何をすれば良いのだろうか、ということだった。

携帯を開いたり閉じたりを繰り返し、意味もなくあたりをきょろきょろとしてみる。

ふと、私の視線の先にぴょこぴょこと動く人物を発見した。

それはまさしく雪村さんであった。

約束の時間まではまだ22分ある。

なんと早いご到着か。
 
彼女は私の姿を発見すると、小さく手を振りながら近づいてきた。

なるほど。

恋とは厄介なものである。

何故、私は彼女を直視できないのであろうか。

全くもって自分という人間の小ささに呆れるばかりだ。

にやけ顔でため息をついたところで、ただ気持ち悪いだけだなのだろうが。


 
彼女に言われるまま、私たちは近くの喫茶店に入ることにした。

店内はコーヒーの香りで溢れており、少しだけ心が落ち着いた。

彼女の前に座りモカを注文する。

雪村さんはカフェオレなどという可愛らしいものを選んだ。

待て。

カフェオレが可愛らしいのか。

それとも、カフェオレを選んだ雪村さんが可愛らしいのか?
 
雪村さんは可愛らしいに決まっているではないか。

そんな私の思考など露知らず、雪村さんは注文された品が届くのを待って、深々と頭を下げた。

「この前はありがとう。おかげで助かりました」 

面と向かってお礼を言われるのはなかなかに恥ずかしいものだ。

私はもごもごと返事をすると、それをごまかすようにコーヒーをすすった。

ふむ。

美味ではないか。
 
それからのぎこちなさは筆舌に尽くしがたい。

これがデートならば失敗以外の何者でもないだろう。

雪村さんはいくつかの話題を提示してくれたが、どうにも私がうまく受け答えができないのだ。

普段よりも舌が回らない。

ついでに、頭も回らない。
 
空回ってばかりだ。

このままでは最悪の印象のまま終わってしまう。

その窮地を打破したのは、認めたくないが、まさかの早坂だった。

「普段は何してるの?」
 
という雪村さんの問いが始まりであり、ある意味で終わりだった。

「早坂という友人と会うことが多いかな」

「早坂君、というとあのちょっと“おかしい人”のこと?」 

私は雪村さんの勘違いを正すため、少々声を荒げた。

私の友人がそんな評価をされているなんて、黙っているわけにはいくまい。

「“ちょっと”どころじゃない」 

それから私は早坂の奇人・変人ぶりをぺらぺらと喋り続けることになる。

中学のときに自転車で隣県まで駆け抜け、夜明けと共に「助けてくれ」という電話が自宅にかかってきた話(当時はまだ携帯電話が普及していなかったのだ。たたき起こされた私の親の身になって欲しい。ついでに、金も体力も尽きたという彼を救いに電車に乗って迎えにいった私を褒めてほしい)。

高校のときに期末試験の前日に新しいゲーム(大きい声では言いたくないが、これも二次元愛に熱いモノだったらしい)を徹夜でやりこみ、大好きな物理の試験の名前欄のところに攻略中のヒロインの名前を書いた話。

大学のときに酒に飲まれて山に登り、夜景を見ながら良いムードになっていたカップルのそばで失恋ソングを熱唱し、彼氏の方にぶん殴られた話などなど。

私の話を聞きながらころころと表情を変える雪村さんを見て、私はだんだんと楽しくなってきた。

“これ”だ。

私は今、とても楽しい。

周りの人間が“これ”にのめりこむ理由がよく分かった。

なるほど、確かに私は今、恋愛している。 

そんなどうでも良い話を終えた後、話は急に現実的な話へと変わった。

秋という季節。

そして修士1回生。

つまり、またあの就職活動が始まる時期なのだ。

彼女は博士課程に進むつもりはなく就職活動を始めたものの、やはり不安がつきまとうという話をしていた。

私はやはり学部時代と同様に就職活動にさほど興味が沸かない。

なるようになるだろう、という甘い考えで生きているわけではないが、それでもやはり焦燥感というものが全く沸いてこなかった。
 
のだが、今日この時を持って、私はあることを決意する。

そのキッカケとなったのは夢の話である。

私なりに真面目に彼女の話を聞いた上、ひとつ尋ねてみたのだ。

「やってみたい仕事って具体的に何か?」

「一応は、ね。でも、あまり贅沢は言ってられないよ。就職先があれば、ね」 

そう言った彼女はちょっぴり切ない顔をしていた。

「言うだけなら無料なわけだし、ちょっと話してみたらどうだ? まだ将来を決めかねている私の参考にさせてくれ」
 
だから、少し道化になってみた。

将来を決めかねているというのは本当の話だが……。

「……笑わない?」 

どきり、とした。

私は多分、彼女のことをもっと知りたいと思っている。


「私、お嫁さんになりたいの」 


瞬間、私は就職することをかたく決心したのである。


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毎日、寒いですね。
若干体調崩しましたが、なんとか元気です。
では、また。


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2011.01.29 Sat l 連載小説 l COM(0) TB(0) l top ▲

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