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遅ればせながら、第2話開始します。

続きから、どうぞ。
 私がこの騒動に巻き込まれたのは、大学院1年の秋のころである。

 周りはやれ実験だの就職活動だの言っている中、相変わらずマイペースに実験に没頭していた早坂から一通のメールが届いた。

 内容はこうだ。

「遂に次元を越えることに成功した。しかし、大きな失敗をしてしまった。どうか、相談に乗って欲しい」 
 
 正直、とうとうどこか壊れたかと思った。

 あるいはくだらない冗談か。

 とは言え、私も特に用事はなかったので(断じて友人がいなくて予定がないわけではない)、ひとまず彼の研究室へ向かうことにした。

 研究室の前にいた彼はなにやら包み紙を持っており、私を見つけると足早に近づいてきた。

「小日向。待っていたぞ」

「さっきのメールはどういうことだ?」

「それを今から話す。とりあえず、これを見てくれ」

 廊下に設置されたソファに腰掛けた彼は、包み紙を開いて見せた。

 何やら奇怪な機械がそこから出てきた。

 ……決して駄洒落を言ったわけではない。

「これは次元移転装置だ」

「……ああ、遂に頭が壊れたか」

「違う。これは僕の研究の成果だ。これを使えば、次元を1つ越えることができる」

 珍しく神妙な顔で言う早坂を見て、僕はふむとその機械に触れてみた。

 金属特有の冷たさがある。

 形容のしがたい形だが、大きさはそれほどではない。

 小型犬くらいだろうか。

 端の方に懐中時計がついている。

 これはいったいなんだろうか。

「ただ1つ、残念なお知らせだ」

「ん?」

「僕は越えるべき次元を間違えてしまったのだ」 

 私は彼の言葉に首を傾げるしかなかった。

 そもそも次元を越えるという話ですら眉唾としか思えないのに、それを間違えたとはいったいどういうことか……。

 そこで私は彼がいったいどういう人物であったかを思い出したのだ。

「つまり、二次元にいく機械を作っていたのだが、何か不手際が生じた、ということか」

「いかにも、そうだ。君は全く理解が早くて助かる。さすがは僕の心友だ」 
 それは不名誉の誉れである。

 気持ち悪いことを言わないで欲しい。

「二次元にいく機械を作っていたはずが、なぜか四次元にいく機械ができてしまったのだ」

「私は物理学やら数学やら、そういった次元に関する話には詳しくないが、そもそも、二次元と四次元では着想の段階で異なるものではないのか?」

「それは確かにその通りだ。全く微積を間違えるとは、大学院生として恥ずべき事態。願わくば、引かないでいただきたい」

 今のは、彼なりのジョークなのだろう。

 スルーを決め込んで、私はこの機械には似合わない懐中時計をとんとんと叩いた。

「引きはしないが、しかし、仮に君の言うように当初の目的が二次元への移転だとすると、ここに時計を取り付けたのはどういうことか。端から時間移動が目的であったとしか考えられないもだが……」

「それに気付くとは、さすが我が心友」 

 この短時間で二回もそれを言うのか。

「その懐中時計は、わが師より頂いた大切なものなのだ。仮に次元を超えてしまっても、それだけは肌身離さずもっていたい。それゆえ設置したに過ぎぬ。……しかし、結果として、この機械を起動する上で必要不可欠なものになってしまったが」
 彼は心底悔しそうに、機械を撫でた。

 愛すべき小型犬をあやすように。

「なるほど。わかった。しかし、野望とは違うとはいえ、この発明はすごいことなのではないか。四次元にいけるということは、つまり時間移動が可能ということだろう? 一種のタイムマシンということだ」

「そう割り切ることもできないのだよ。僕としては、二次元に行けなければ意味が無いのだ」

「そういうものか」

「そういうものなのだ」 

 そこで彼はため息をついた。

 そして、嫌に真剣な瞳でこちらを見据えてきたのである。

 ああ、これはきっと大変な目に遭う。と長年の経験が語る。

「ただ、この発見がどちらにせよ注目を浴びてしまったのはまずい。どこぞの誰かが、僕の本来の目的に気付いてしまう可能性もある。厄介なイレギュラーが加わるというのは、よろしいものではないのだ。僕は、これに人生をかけているといっても過言ではない。……そこでだ!」 

 言いたくはないが、言うしかあるまい。

「なんだ?」

「君にはこれをもっていってもらいたい」 

 このようなものを預けられて、私にどうしろというのか。

 過去に飛んで、彼との出会いから取り消してしまおうか。

「僕は今から小火騒ぎを起こす。君は、その騒ぎに乗じて、これをこっそり持ち運んでくれたまえ」

「しかし――」

「良いではないか。これを自由に使ってくれても構わない。夢のある四次元への世界へ飛びだって見たくはないか?」 

 時間移動。そこに魅力を感じないといえば嘘になる。

 ちなみに、彼との過去を消すことに魅力を感じているわけではない。

「いずれにせよ、しばらく預かってもらえると非常に助かる」 

 それで私は完全に折れた。

 もはや、彼の中で私がこれを預かるのは決定事項なのだ。

「こうなると君が頑ななのは知っている。しかたあるまい。これは私が預かろう」

「それでこそ、心友だ。頼んだぞ」

「任せておけ」

 かくして、私は計画通り、小火騒ぎの混乱に乗じて早坂の作成した“次元移転装置”を手に、下宿へと舞い戻るのだった。

 ちなみに、その小火騒ぎにより、早坂のいる研究室のなんとかというドクターが愛用していたコンピュータが灰と化したことは、ここではさしたる問題ではないので割愛する。
 
 尚、バックアップはきちんととらねばならないことを、ここに強く明記しておく。



 自宅に戻った私は机の上に置きっぱなしのノートパソコンを脇へとずらし、例の次元移転装置を空いた場所に乗せた。

 果たして、これが本当に四次元への移転を可能とするのか。

 すなわち、タイムトラベルを可能とするのか。

 これでも、研究者の端くれ。

 分野は違えど、こういった未知のものに興味がわくのは間違いない。

 しかし、作ったのは著名な教授でも、有能な研究者でもない。

 私の友人の一人だ。

 信憑性には欠ける。
 
 そんな私の背を押したのは、友人から届いたメーリングリストだった。

 このメーリングリストは近隣の研究室に所属する学生同士が飲み会やらソフトボール大会やらの連絡をするために使っているものである。
 
 その内容はひどく短かったが、私をひどく驚かせた。

「雪村さんが事故に遭って怪我をした。付属病院で治療中」

 ふと、彼女の明るい笑顔が浮かぶ。
 
 私の淋しい学生生活において、わずかながらの灯りであった彼女が事故に遭ってしまったというのは、非常にいたたまれない。

 私に何か……。
 ただ。何気なく、である。

 私は早坂から預かった装置に視線を向けた。

 そして、自己主張激しくくっついている懐中時計に指を走らせた。

 何のことはない。

 その針をほんの30分ほど前に回したのである。

 知的好奇心とはげに恐ろしいものである。

 私の意識は、むにょりと揺れた。



「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 という地獄の底から聞こえてきた断末魔の様な叫び声を頭上に聞いた。

 頭上ということは地獄からではなく天国から聞こえたものではなかろうか。

 しかし、天国から届いた声が、このような悪い意味で心を震わせる叫び声であるというのは、いささかロマンティシズムに欠けるであろう。

 と、すれば、これは堕天使の叫びか――? 

 その考えは半分正解といえた。

 見上げた空に、私は悪魔の形相の天使を見たのだ。
 
 ああ、やはり先程の声は天からのものに違いない。

 私、小日向の上に雪村さんが文字通り降ってきたのである。

 むにょりという柔らかい感覚。

 しかし、それはさっきの意識が飛ぶ感覚ではない。

 これは、つまり、あれだ。

 天使からの贈り物だ。

 そうに違いない。

 そうでなければ、これほど柔らかく、そして、気持ちの良いものがこの世に存在するなどと、いやいや、落ち着け、なんというか、この、いっぱいのいをおに変えたものの手触りというのは、失礼、やはり、少し動転しているようだ、それではおっぱおになってしまうではないか、失敗、失敗、ふむ、なるほど、しっぱいのしをおに変えたものであるな、これはまさしく――と、今はそのようなことをしている場合ではない、とりあえず、むにょりむにょりと揉んでいる、この手をどうにかしなければ、いや、しかし、待て待て、ここで止めろというのは、なんとも――

「きゃあああああ!」

 今度のはまさしく、天使の叫び声であり、私の頬は大好物のトマトに負けないくらい真っ赤に晴れ上がった。

 これではあまりに熟れ過ぎだ。

 涙目で口をぱくぱくとさせる天使を尻目に、私はそっと懐中時計の針を30分後に回したのだった。

 次のむにょりは、意識が飛ぶときのむにょりであり、決して卑猥な感触ではないことを言っておく。

 さすがに頬を張られてまで、破廉恥な行為に励むほど私も落ちぶれてはいないのだ。

 良いか?

 平手により晴れ上がった頬よりも赤い雪村さんの顔を見て、さらに気持ちが昂ぶったわけではないのだ。

 断じて、否である。

 しかし、やはり二次元よりも三次元の方が勝ることだけは確かであった。

 早坂よ。君は間違っている。

 それだけはここに記しておく。

 では、そろそろ行こうか。

 むにょり。


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~~~
少々、更新が滞ったため、長めに更新したつもりです。
そんなでもないかもしれませんけど。
とりあえず、気長にお待ちください。
失礼します。

なんか、前の記事の「次へ→」にリンクが張れない。
また挑戦しますけど、まぁ記事が離れているわけではないので良いかなぁと思ったり。

いけますた。
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2011.01.27 Thu l 連載小説 l COM(0) TB(0) l top ▲

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