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お題「金貨」「蝶」「娘」



4作目にして、とうとう50分いっぱい使った。

というか、見直す時間はなかった。

うあー。

なんて言い訳しつつ、一応最後までは書きました。

「蝶と花」

では、どうぞ。
ひとめ惚れ。

そんなもの、あるはずがないと思っていた。

一目見ただけで恋に落ちるだなんて、そんなのは“お話”の中の出来事に過ぎず、現実には起こりえないと思っていた。

だからこそ、この胸の高鳴りが、恋であるだなんて、信じたくはなかった。





この地に住んで、早10数年。

あんな場所があったことすら知らなかった。

その日は偶然、いや、もしこれが“運命”だとするならば必然に導かれて、僕はそこにやってきた。



見渡すばかりの花畑。



僕は、その光景に見惚れた。

圧倒された。

美しさは人を惑わす、と思った。

そして、そこに彼女はいたのだ。



それは、さながら花畑を舞い踊る蝶のようであった。



ひらひら、ひらひら。

白いワンピースを着た、さほど歳も変わらないであろうひとりの娘は花の中をくるくると回っていた。

そのモンシロチョウは、花から花へと飛び回る。



そう。

僕は花畑ではなく、その娘に見惚れたのだ。



ああ。

これが、俗に言う“ひとめ惚れ”というやつなのだろうか。

お話の世界でしか、ありえないと思っていたやつなのだろうか。





僕が、突っ立ったまま凝視していたからだろう。

やがて、視線に気づいたらしい彼女は僕の方を振り向くと、この場に自分以外の人間がいることに小さく驚いて、それから笑った。

その笑顔で鼓動が激しく波打つ。

彼女の視線に囚われ、僕は身動きがとれなくなった。

「どうかした?」

なんと清らかな声だろう。

そう訊ねる彼女を前にして、僕はさらに縮こまった。

「あ、いや……」

しどろもどろになりながら、僕はなんとか受け答えしようと必死だった。

そんな僕の態度をおかしく思ったのか、彼女はふふっと笑う。

「おかしな人ね」

もうだめだ、と思った。

諦めた。

これは、“恋”だ。

僕は彼女に惚れたのだ。





それから何日か、花畑の中で彼女と語り合う日々が続いた。

はじめのうちは緊張でうまく回らなかった口も次第に動くようになる。

僕は彼女と会う日数を重ねるたびに、饒舌になっていった。

僕は彼女に会うときは必ず何か贈り物を持っていった。

その方が喜ばれると思ったのだ。

とにかく僕は彼女に好かれようと必死だった。



しかし、会える時間はほんの数時間に過ぎなかった。

なんでも彼女の両親はかなり厳しい人らしく、外で異性と会うことを禁止しているらしかった。

そんな事情を聞いて、僕は優越感を覚えずにはいられなかった。

だって、禁止されているというのに彼女は僕と会ってくれているのだ。

それが、たとえ数時間という短い間であったとしても、彼女は僕に会いに来てくれている。

それがたまらなく嬉しかった。



僕は盲目的なまでに彼女を愛していたのかもしれない。





そして、そんな昼の時間をいくらか過ごした後、いよいよ時が来た――。

期待していなかった、といえば嘘になるし、

別にそんな下心なんてなかった、といえば、これはもう明らかに嘘だ。

だから、彼女がそう言ったとき、どうしようもなく幸せだと感じたのは仕方がないだろう。

彼女は言ったのだ。



「今晩、またここで」と。



片目を閉じ、愛嬌たっぷりの笑みを浮かべて。

それが、情事の約束でない、と誰が思おうか。

少なくとも、僕はそうだと思ったのだ。

普段は昼間しか、しかも、ほんのちょっとしか会えない彼女が、

両親から異性と会うことさえ禁止されている彼女が、

“夜に会おう”というのだ。

これで期待しないなんて、男ではない。





さて、もうこれ以上は待てないというくらいに待ちに待った、その日の晩。

僕は、いそいそと花畑へ向かった。

途中、今晩の贈り物として小さなブローチを夜店で買った。

それを握り締めて、変な期待と微妙な不安を胸に花畑へ向かう。



いつもの見渡すばかりの花畑。



昼とは違う、淫靡な光景。

僕は太陽の出ているころとは違った意味で、その光景に見惚れた。

打ちのめされた。

妖艶は人を惑わす、と思った。

そして、そこにやはり彼女はいた。

いつものように、ひらひらと舞う彼女を想像していた僕は心臓を鷲づかみにされたような感覚に陥った。



月明かりの下、彼女はそこにぽつんと座っていた。



昼間とは違う彼女。

僕の興奮は醒めない。

そして、そのまま彼女の元に歩いていく。

と、彼女がゆらりと立ち上がった。

手には、何か銃らしきものが――。










目が覚めたとき、僕は花畑の中心に倒れていた。

頭がくらくらする。

「あれ?」

のそりと起き上がり、辺りを見渡すが彼女の姿はない。

「ん?」

と思ったのも束の間、とある違和感を覚えて僕はポケットをまさぐった。

無い、のだ。

金貨が数枚ほど入っていたはずの、ブローチを買うために持ってきた僕の財布が。



ああ、と僕は肩を落とした。



そして、気づいた。

僕の胸に見覚えのあるものがついている。

それは僕が彼女のために買ったブローチだった。

彼女にあげるはずの、蝶の形をしたブローチだった。





そうか。

僕は間違っていた。

彼女は蝶ではなかったのだ。

彼女は自らの器量を蜜にして、僕という蝶を誘い込んだのだ。。



そう。

彼女は花だった。



それっきり、あの娘には会っていない。

僕は思う。

やはり“ひとめぼれ”なんてものは幻想だと。



完。


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2009.01.24 Sat l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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