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お題「旅行」「ゲームボーイ」「スケート」



ジャンルは恋愛小説になるのだろうか。

敢えてタイトルをつけるなら

「再会と再開」

では、どうぞ。
雪のちらつく寒い日。

僕は電車に揺られながら、外の真っ白な景色を眺めていた。



果たして、これは旅行と呼べるのだろうか。

荷物の量や格好から見れば、僕はただの旅行者に見えただろう。

しかし、実際は違う。

僕は家出してきたのだ。

家出、というとまた違うかもしれない。

逃げ出してきたのだ。



先日、恋人が死んだ。

交通事故だった。

僕の目の前で、彼女は宙を舞った。

僕は、彼女を救えなかった。

僕の伸ばした手は空を掴み、彼女の手もまた何も掴めなかった。



そんな彼女との思い出が残った土地に、彼女のぬくもりが残った家にいられなくなって、

僕は飛び出したのだ。



電車は前に、雪景色は後ろに進む。

僕は無理やりに前に、記憶は無理やりに後ろに進ませる。



いったい、どこまで行くのだろう……。

そんなことは、決めていなかった。

できるだけ、遠くへ。

僕のことを知っている人が誰もいない場所へ。




電車内で、ぼーっと景色を見ていることに飽きた僕はカバンの中を探った。

着替えやタオル、歯ブラシなど、生活必需品がいくつかでてきた。

ふと硬いものが手に当たった。

なんだろう、と思い取り出してみると、それはゲームボーイだった。

こんなものを入れただろうか、と思いつつ、それの電源を入れる。

そして決めた。



この電池が切れたところで下りよう、と。



さて、結果としてそれから数時間は揺られることになった。

思いのほか、懐かしいRPGゲームにはまっていたらしく、

唐突に電源が切れたとき、セーブをしていないことに悔しさを滲み出させたほどだ。

久しぶりに外を見ると、そこはやはり雪景色だった。



次の停車駅で降りよう。



僕は荷物をまとめて立ち上がった。

新しい土地で、僕は変われるだろうか。





ようやく見つけた宿についたころには、すっかり辺りは暗くなっていた。

随分と田舎のようで、客は僕とあと数人くらいしかいないらしい。

侘しい部屋に通され、ひとまず僕は暖房を入れた。

とても寒かった。

かじかむ手を擦り合わせながら窓外を見た。

近くに小さな池があり、その表面はうっすらと凍っているらしかった。



ふと、僕の目が何かを捕らえた。

何かが池の上を動いていたのだ。

いや、滑っていた。

僕の目は、その影に釘付けになった。

遠目なので顔はよく見えないが、姿形から大人の女性であることは分かった。

誰かが氷上を滑っている。踊っている。



信じられないことだが、そのとき僕はそれを妖精か何かかと思った。

こんな時間に、しかも、子どもならまだしも大人の女性が池の上でスケートをするとは思えなかったのだ。

僕はどこか呆けたまま、彼女を見つめていた。



だが唐突に、それは起こった。

池に張った氷は厚くなかった。

つまり、氷が割れたのだ。

何かが落ちる水音がし、静寂の中に一筋の叫び声が轟いた。

僕の足は自然と動き出していた。

この寒さで池に落ちたら、間違いなく、死ぬ。







――死ぬ?







僕の頭をかすめたその言葉は、自然と死んだ彼女の姿まで呼び起こした。

くそっ。

結局、遠く離れても、彼女のことを忘れられるわけなどなかったのだ。





女性は池の中でもがいていた。

僕は迷わず池に飛び込んだ。

刺すような痛みが体中を貫いた。

冷たい、じゃない。

痛い、だ。



もがく女性に何度か沈められそうになりつつ、僕らは何とか岸辺にたどり着いた。

「あ、あ、ありが、と、う」

息も絶え絶えに女性は言った。

僕は声を出せず、ただ頷いてそれに答えた。

「し、死ぬか、と、お、思った……」

全くだ、と思うと同時に、僕の瞳から涙が溢れた。



なぜ、今なのだろう、と。



本当に助けたかった人を助けられなかったくせに……。

あの時は、地面に貼り付けられたかのようにぴくりとも足を動かせなかったくせに……。

それは、僕の心に重い鉛として残る。



「どうしたの?」



妙にはっきりした声で、僕が助けた女性が訊ねた。

柔らかい笑みを浮かべて僕を見るその顔が、月明かりに照らされた。

そして、僕は初めて女性の顔を見た。



「助けてくれて、ありがとう」



それは、まさしく“彼女”の顔だった。

「え……?」

彼女は小さく笑い、僕の頬にその手を触れた。




「あなたは私を助けてくれた。だから、もう思い悩まなくて良いのよ」




何がなんだか分からなかったけれど、首を縦に振った。

何度も、何度も。

それを確認して、彼女はもう一度笑い、その唇を――。



そうして、寒さからか、それとも長時間の移動でたまった疲労からか、僕は意識を失った。





目を覚ますと、宿の布団の上だった。

すっかり太陽は昇り、朝を迎えている。

と、するとあれは夢だったのだろうか。

しかし、暖房器具がついている割には、身体中が凍ったように寒かった。

風呂に入った覚えなんてないのに、髪の毛はびしょぬれだった。

とにかく髪を拭こうと、カバンを開けタオルを取り出す。

それと同時に何かが零れ落ちた。



全て処分したと思っていたはずの、彼女の写真だった。



初めてのデートでスケートにいったときの写真だ。

嬉しそうに笑う彼女を見て、僕は驚くぐらい素直に家に帰ろうと思った。



完。



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2009.01.21 Wed l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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