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お題「桜・棚・宇宙」

空旅天 様より提供していただきましたお題です。

オチはねぇ……。

まぁ好きに想像してもらいたいかな、と。

どぞ。
まだつぼみもついてない木々が立ち並ぶ公園。

気温はまだ肌寒いくらいだ。

僕はそんな淋しい場所で1人ベンチに腰掛け、缶ビールを開けた。

この公園は近いうちに取り壊されるらしい。

子どもが少なくなったこの土地に公園など不要なのだ。

思えば、僕はいつの間にビールが飲めるようになったのだろう。

時間を忘れて駆け回ったあの日以来久しく訪れていなかったこの地に、なぜ今やって来たのだろう。



その問いは無意味だ。



“とある思い出”の残るこの公園に、僕は吸い寄せられたのかもしれない。

そう。

あれがきっと、僕の初恋だった。

僕こそが宇宙で一番幸せだと思ったあの日。

……僕は宇宙で一番不幸になった。

もう随分前になる。

今日のように、まだ咲く気配なんて微塵も見せていなかった頃の話だ。





この公園の桜が一晩で満開になった年があった。


~~~


あれを奇跡と呼ばないのならな、この世で起こりうる奇跡など奇跡ではない。

その証拠が、今も僕の手元にある。

普段は自宅の棚に後生大事に飾ってある小瓶。

その中に1枚の桜の花びらが入っている。

それは、あの日から枯れることなく綺麗に輝き続けているのだ。

僕はポケットから取り出したそれをじっと眺めた。

美しい桜色。

それを見ながら、僕は2缶目に手をかけた。

感傷的になりすぎたのか、それとも早くも酔いが回ったのか、

僕は、あの日の僕らを目の前に見た気がした。


~~~


あれは、小学校の高学年のころだった。

いつも一緒に遊んでいた女の子がいた。

思春期に入るか入らないかという時期で、異性の友人と遊んでいるとからかわれたものだ。

だけど、僕らはいつも一緒にいた。

なぜだかは分からない。

僕らは一緒にいることが当たり前だったのだ。

昨日も、今日も、明日も……。

来週も、来月も、来年も……。

それが当たり前だったのだ。



だから、突然それが当たり前でなくなったとき、僕は喩えようのない喪失感にとらわれた。

彼女ともう会えなくなる――。

それだけで、僕の全てが無くなった気がした。

つまるところ、彼女は転校することになったのだ。

彼女の転校の話を聞いて、僕は彼女と近づかなくなった。

理由はよく覚えていない。

どう接したらよいか分からなくなったのだ。

お互いに気まずいまま時は過ぎていく。

そして、いよいよ彼女の転校が明日に迫った日。



僕は、公園にいた。



そこは、彼女と共によく遊んだ公園だった。

日が落ちるとまだ少しだけ寒いその場所で僕は鼻をすすりながらベンチに腰掛けていた。

この夜が明けると、彼女は遠くに行ってしまう。

彼女に会えなくなるのは嫌だ。

ならば、今彼女に会いに行かなければ、もっと後悔するのではないか。

そう思っても足は動かない。

彼女に会って、何をしたらよいのかが分からないのだ。

そんなときだった。

あまりにも情けない顔でうずくまっていた僕の前に現れたのは、他でもない彼女だった。

彼女は泣きそうな僕の前で、指を天に突きつけた。

否、僕らの頭上にある桜の木を指差したのだ。

「私、桜って大好き」

それが久しぶりに聞いた彼女の声だった。

「この公園の桜が大好き」

彼女の言う意味が理解できずに、僕はただひたすら無言で続きを待つ。

「あなたと見る、この公園の桜が大好き」

それは一瞬のことだった。

どんな味だった、と聞かれると、僕は必ずこう答えるだろう。





桜の味だった。





何のひねりもない。

桜を食べた経験なんてない。

でも、あれは確かに桜の味だった。

その後、彼女は何事もなかったかのように僕の横に腰掛け、手をつないだ。

温かい手だった。

僕らは何も言わず、静かに目を閉じたのだった。



翌日、その奇跡が起きた。

目覚めた僕らの頭上は桃色の空だった。

信じられない、といった表情で見上げる僕とは対照的に、彼女は泣きながら笑った。

「また、一緒にここで桜を見ようね。約束!」


~~~


僕の記憶は、そこで止まる。

桜吹雪にかき消されるように、彼女の姿が消え、僕はひとり残されるのだ。

僕は彼女の面影を探すように、さっきまで彼女がいたはずの場所に目を移す。

彼女が座っていた場所。

そこに1枚の花びらが落ちていた。

僕は迷わずそれを拾い上げ、家に持ち帰った。

そう。

それが、これだ。

僕は、その小瓶を再びポケットにしまうと、あの日と同じように目を閉じた。

違うのは、僕の手には彼女のぬくもりではなく小瓶の冷たさしかない、ということだった。










桜の匂いがした――。



目覚めたとき、僕はそれほど驚かなかった。

予感があったのとは違う気がする。

「ただいま」

年甲斐も無く、どきりとした。

僕は微笑む彼女の鼻にそっと触れた。

そこに乗っかった花びらをつまみ上げ、手のひらに包み込む。

確かに彼女のぬくもりがあった。

そのぬくもりを感じた途端、何故か涙が流れた。

その理由を僕は知っている。

しかし、決して口には出さない。

漏れる嗚咽を抑え付け、ゆっくりと手のひらを開いた。

そこに花びらはなく、代わりに僕の涙が落ちた。










小瓶の桜は枯れていた――。


了。


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2009.05.26 Tue l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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