上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top ▲
お題「折り紙」「自動車」「オムライス」

久々に長いのを書いた。

これ、しっかりプロットを作ればぼちぼち良い感じになるんじゃないかな。

展開が無理やりなのは、やはり時間制限のせいです。

すみません。

では、どうぞ。
世の中には不思議な力を持つ人がいるものだ。

そうしみじみと思ったのは彼女に出会ってからだ。

彼女は時代が違えば、“魔女”と蔑まれ処刑されていたかもしれない。

それほどまでに彼女の持つ能力は特殊だった。



彼女と出会ったのは、本当に偶然だった。

世界中を放浪していた私は、ある日死んでもおかしくない目に遭った。

これまでも過酷な旅をしてきた経験が慢心となったのだろう。

私は砂漠でひとり彷徨うことになったのだ。

砂を踏む音だけが耳に響く。

気が遠くなるような音だ。

水、とにかく水が欲しい。

そう思ったときだった。

私の耳に砂を踏む以外の音が聞こえた。

あれは、砂上を走る音だ。

さらに、エンジン音。

私は音の方向に目をやった。

学生時代、新学期を迎える前の気分と同様、期待と希望に胸を膨らませて。

そして、口をぽかんと開けて停止する。

そこにあったのは、自動車であった。

否、自動車のようなものだった。

運転手は女性。

彼女はその自動車のようなものから降りると、それをぐちゃぐちゃに丸めた。

唖然とする私を前にして、彼女は荷物の中から何かを取り出した。

折り紙、というには少し大きめの紙。

彼女は無心にそれを折る。

私は彼女に見惚れていたのだろう。

その指先は、まさに魔術と言って良かった。

彼女が生み出したのは、紙でできたペットボトルだった。

上手いもんだな、と思っていると、彼女は信じられない行動に出た。

紙のペットボトルのキャップを開けたのだ。

そして、無言で私に手渡してくる。

「…………」

何かを言いたかったのだが、声が出なかった。

私は震える手でそれを受け取る。

ほんのりと冷たい。

中を覗きこむと、水が入っていた。

私は無我夢中でそれを飲み干した。

味など覚えていない。

あれが水の味だったか、果たして紙の味だったか。

そんなことはどうでも良い。

とにかく私は救われたのだ。





何度も感謝の言葉を口にしてから彼女と雑談を交わした。

彼女もまた旅をしているらしかった。

私は彼女にその不思議な能力について訊ねる。

「私にもよく分からないんだけどね、魔法みたいなものよ」

「へぇ……」

ふふっと笑った彼女はとても愛らしく見えた。

紙から水を生み出したときは度肝を抜かれたし、

これはまさか天使のお迎えか、あるいは悪魔のお迎えかとすら思った。

しかし、こうして話してみるとどうだ。

ほぼ同年代の、普通の女性ではないか。

私は命の恩人である彼女に、何かを返したいと思った。





それからしばらくの月日が流れる。

彼女とも親密になり、世間で言うところの恋人同士になった。

そうなると、いくつか秘密も漏れてくる。

紙から何かを生み出す以上の秘密はなかったが、もうひとつ衝撃的な事実を知ることになる。


彼女は味覚障害であった。


と、言うのも旅を続けているうちに“紙の食事”が増えたかららしい。

どうやら私の飲んだ水も紙の味がしたらしい。

普段ならば、喉を通りはしなかっただろう。

つまり見た目は美味しそうな料理でも、味は一緒。

紙の味しかしないということだ。

ただ彼女はあまりお金もないし、さらに食材などは持ち歩くのに不便だということで、何の代わりにでもなる紙を持って旅をしていた。

結果、生活に全く支障は出なかったのだが、その代償として味覚を失った。

さて、そんな彼女に何を返せるか。



私は放浪の旅をきっぱりとやめ、料理の勉強をすることにした。



初めに彼女に食べてもらったのはオムライスであった。

学生時代から得意料理であったそれは、久しぶりに作っても上手くできた。

しかし、彼女には通用しなかった。

「わからない」

それが彼女の答え。

悲しげな表情を加えて。



私は試行錯誤を繰り返した。

味を濃い目にしてみたり、味の中で最も閾値の小さい苦味を中心にした料理を作ったりもした。

けれど、結果はいつも同じ。

「わからない」

私の料理を食べるたびに、悲しげな表情が増す彼女を見て、

私の心は痛んだ。




……しかし、彼女の心はそれ以上に痛んでいたらしい。




だから、それは唐突ではなかったのだろう。

彼女からの別れは、1枚の手紙だった。

置手紙に短い言葉たち。


ありがとう。さようなら。


私には彼女を追いかけることができなかった。

追いかけて捕まえたとしても、彼女に何をしてあげればよいか分からなかった。

恩返しのつもりだったが、彼女の傷をえぐる形になったのかもしれない。

私は後悔の念にとらわれ、全てを投げ出した。

真剣にとりくんだせいで、無駄に上手になった料理もやめた。



そしてまた、旅に出ようと思った。







旅先での出会いは偉大だ。

人の優しさに触れ、交流に頬を緩ませる。

無論、逆もまた然りだ。

しかし、再びの放浪はそんな感動も薄かった。

あの時、彼女に出会った以上の出来事はもう無い。

私はただ義務をこなすかのように国を回った。

このまま野垂れ死んでも良いとさえ思った。

そして――。



いつかと同様、私は砂漠で倒れこんだ。



空に輝く満天の星を見ながら願った。

流れ星が一筋。

二筋。

何を願ったのかは口が裂けても言えない。

私は静かに目を閉じ、天使が迎えに来るのを今か今かと待った。







迎えに来た天使は不思議な力を持っていた。

懐かしい紙の味がした。

紙の水が喉を潤す。

私が見た天使の笑顔は、見覚えのあるそれだった。










それは、ただの噂である。

ある国の、ある砂漠。

そのど真ん中に仲の良い夫婦がやっているレストランがあるらしい。

嘘だとお思いかもしれないが、そのレストランはぺらぺらの紙でできている。

メニューを開くとまずはオムライスの写真が飛び込んでくる。

どうやらそれが人気メニューらしい。

その写真の脇にはシェフからの一言が書かれている。





妻が美味しいといった当店自慢のオムライス。

一度、ご賞味あれ。




完。


banner2.gif にほんブログ村 小説ブログへ
スポンサーサイト

2009.05.05 Tue l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

コメント

コメントの投稿












       

トラックバック

トラックバックURL
→http://hungry1spice.blog25.fc2.com/tb.php/116-c61b608d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。