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お題「カレンダー」「竜」「登山」

微妙。

なんか良いのが書けんねぇ。

執筆意欲はあがってるんだけどねぇ。

どうぞ。
残された期間は、わずかしかなかった。



母の命はそう長くはない。

だから、僕はそれまでにやらねばならない。

父が残した日記を頼りに。



~~~



つい先日の話だ。

数年前になくなった父の日記がふらっと出てきた。

こんなものを書いていたのか、と思い、何気なくページをめくった。

すると、そこに1枚の写真が挟まっていた。

なんだろうと思う間もなかった。





そこに映っていたのは、竜だった。





この写真が合成写真ではない、と信じることができたのはひとえに僕が父の息子だったからに他ならない。

父は正真正銘の正直者だった。

その父が、竜の写真を挟んだページに、こう綴っていたのだ。



~~~



私は竜を見た。

夢ではない。

あれは、本物の竜である。

証拠として写真におさめたが、きっとこれを信じてくれるものなどいないだろう。

だから、私は自分の胸に秘めておこうと思う。

あの出来事は、私だけの思い出にしておこうと思う。

だが、もし。

私の言葉を信じてくれる者がいるならば、いつの日か一緒に行きたいと思う。

私が竜に出会った○○山へ。



~~~



思い当たる節があった。

○○山といえば、父が母にプロポーズをした場所である。

登山を終え、山の頂上でプロポーズ。

それを聞いたときには、へぇ、としか思わなかったが、これで合点がいった。

父は、母とともに竜を見に行ったのだ。

僕は日記を閉じて、いそいでカレンダーに目を向けた。

仕事の休みがとれそうなのは……?

病院側はなんと言うか分からない。

しかし、僕はどうしても、母に最期の思い出をあげたかった。



~~~



竜の話をしたとき、母は小さく顔をほころばせただけで何も言わなかった。

けれど、それで充分だった。

母は多分、僕と一緒に山に登ってくれる。

病院側も、最期は好きなことをしてもらいたいんです、という僕の願いを聞き入れてくれた。

準備は整い、僕らは○○山に向かった。

車椅子を押して、どこまで登れるか。

最終的に母を負ぶって登らざるを得ないことは明白だ。

僕は、母を思い出の地へ連れて行くことができるだろうか。



~~~



車でいけるところまで行き、母を車椅子に乗せ、僕らは山を登り始めた。

舗装された道を登り終え、いよいよ山中というところで、僕は車椅子を止め母を背負った。

こんなにも小さく、こんなにも軽かったろうか。

僕は込み上げてくる思いをかみ殺し、母と共に山中に入った。

思ったよりも険しい山道だった。

額から汗がふきだし、母の息遣いも苦しそうになる。

それでも、僕は止まらない。

なんとしても、僕は登りきらなくてはならない。

子どもは親に、何かを返さなくてはいけないのだ。



~~~



頂上についたとき、僕の疲労もピークに達した。

足が動かない。

息も整わない。

とにかく母と共に無事に登りきれたことだけは確実だ。

証拠に、母は僕の背で小さく歓喜の声をあげた。





まさしく絶景であった。





眼下に広がる景色が僕らを満たしていく。

山登りの楽しみの1つが、ここにあった。

僕は乱れた呼吸のまま、母をこの景色がよく見える場所まで連れて行った。

母は何度も、ありがとうと言ってくれたが、まだ早い。

僕の目的は母と山に登り、この景色を見ることではない。

だから僕は母と一緒に適当な場所に座り、二人でしばらく空を見上げていた。



~~~



「もう、帰ろう」

そう言われたのは、空を見上げて何時間が過ぎたころだったろうか。

「え?」

「もう充分だから、帰ろう」

母の弱々しい声が隣から聞こえる。

「でも……」

「あんたの気持ちは、ちゃあんと伝わっているから」

そこまで言われても、僕は引き下がれなかった。

だって――。



一陣の風が吹いた。



思わず目を瞑り、風がやんだ頃にそれを開く。

母の固まった顔と、見上げる視線。

僕の目に、それは飛び込んだ。





僕らは世にも美しい生物を見た。






あれが、竜。

僕の頭上を優雅に舞う姿は、この世の全てを魅了していた。

一度でも目を瞑ってしまえば、見えなくなってしまうかもしれないと思った。

だから、僕は決して瞬きをせずに、じっとそれを見続けた。

もう何もかもがどうでもよくなるくらい、僕の心はそれに奪われたのだ。

同時に、母が嗚咽を漏らした。

どうやら、僕の試みは成功に終わったらしい。




僕は、今このときのために、これまで生きてきたっ!





~~~



翌日、母はこの世を去った。

僕が見た最期の母は、竜に負けないくらいに美しい笑顔だった。

涙を堪えて自宅へと戻る。

登山による肉体的な疲れと、母の死という精神的な疲れが身体にのしかかる。

僕はそれを支えきれずに倒れこんだ。

とにかく、果てしなく眠かった。





――夢を見た。

竜の背に乗り、空を飛び回る夢だ。

見た目ごつごつした竜の身体だが、思いのほか柔らかかった。

ふんわりと、僕を優しく包み込んでくれる。

僕の頭を何かがなでていった。

真っ白な気持ち。

真っ白な頭。

真っ白な視界。

目を閉じると消えてしまう幻が、今僕の傍にある。

目を閉じるとなくなってしまうぬくもりが、今だけ僕の傍にある。

竜がひとつ啼いた。

どこかで聞いた大好きな声だった。

竜がもうひとつ啼いた。

いつも聞いていた大好きな声だった。

それで、もう充分だったのだろう。

絶対に目を瞑るわけにはいかない、という思いがやんわりとほどけていく。

そうして、僕は穏やかな気持ちのまま、ゆっくりと瞼を落とした。




完。


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2009.04.11 Sat l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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