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お題「冠」「ハリネズミ」「葬式」

オチてない。

オチてないけど仕方ない。

時間切れってやつです。

どうぞ。
狐はたくさんのことを知っているが、ハリネズミはでかいことを1つだけ知っている――(アルキロコス)





彼はハリネズミであった。

興味を抱いた、たった1つのことを突き詰めていた彼は自分とはかけ離れた存在であった。

そして、それは彼の尊敬すべき点であり、また軽蔑すべき点でもあった。

彼の追及の姿勢はお世辞抜きに素晴らしいと思う。

たとえ世界に影響を及ぼしうるほど大きなことでも、自分に影響を及ぼしうるほど好きなことでも、何年も同じことを続けるなんて、僕には到底真似できない。

僕は狐だ。

小さくても良いから、できるだけ広く浅く、いろんなことを知りたい。

全くもって、彼とは対照的であった。

しかし、最終的に日の目を見るのは決まって僕よりも彼のようなタイプであるとも理解していた。

研究者としてやっていきたければ、目移りしてはならない。

そういった意味から誰しもが、彼ならばその分野で頂点に立てると思っていた。

否、信じていた。



だが、残念ながら、彼の偉大な一手は打たれる前に消えることになる。



~~~



今年のこと。

僕らは20歳になった。

成人式へ向かおうと着慣れぬスーツを着て、家を出ようとしたときだった。

携帯電話が震えた。

懐かしい名前がそこに表示されていた。

彼の名前だ。

僕は久しぶりに彼の声が聞けると思い、やや高揚した気分で携帯を開いた。

そして、知った。



その日、彼が病気で亡くなったということを。



~~~



彼は数年前から病気を患っていた。

それは知っていたが、まさか死につながるほど重いものだとは思わなかった。

彼はきっと、誰にも言わなかったのだろう。

そういう男だ。



電話をかけてくれたのは、彼の母親だった。

どうも僕は彼の中で“親友”というカテゴリーだったらしく、彼は家でよく僕の話をしていたらしい。

確かに友人としてかなり仲の良い部類であったことに相違ないが、彼にそのような言葉で表される関係であると思われていたことは純粋に嬉しかった。

ただ、そこまで言うなら病気のことも教えておいて欲しかった。

……そういう男なのだけれど。



成人式には向かわず、彼の家へ向かうと母親から大量の書類と書物を含めた彼の研究資料を手渡された。

大学2年にして、ここまでできる人間がいったいどれくらいいるのだろうと思われるほど、分野に精通した内容であった。

正直に言うと、このときの僕には、彼のやっていたことが微塵も理解できなかった。

しかし、彼の母親から次のように言われ、受け取らざるを得なくなった。


「この続きは、あなたにしかできない、と言っていました」


彼にそこまで言わせるほど、僕に才能など無いはずだ。

無いのだけれど、とにかく何かをしなくてはならない。

彼にそこまで言われたのだ。

彼のために、という言い方はしたくない。

だけど、きっと僕は彼のためにそうしたいと思ったのだろう。

手渡された大量の資料を抱え、僕は家へ戻った。




~~~



「成人式に続いて葬式か。……冠婚葬祭の冠と葬が一気に来たんだな」

ぼんやりとした頭でそう思った。

僕の手には1枚の薄い紙が握られている。

それは、僕宛の彼からの手紙であった。

詳しい内容は僕だけの秘密にしておきたい。

ただ1つだけ教えるならば、そこにはまもなく20歳を迎えるであろう自分と、迎えられないかもしれない自分がいる旨が記されていた。

彼は、自分が今の時期辺りに死んでしまうことをきちんと認識していたのだろう。

だから、こうして自らの生きた軌跡を僕に託したのだ。

もはや二度と新しく綴られることのない、彼の文字がそこにある。

彼に親友とまで言わせた僕に、いったい何ができようか。

部屋の本棚に並んだ、様々な分野の本。

理系から文系から、とにかく興味を持ったものを適当に集めてまわった。

面白かったものも、どうしようもなくくだらないものもある。

ここに並んだ本は、僕の軌跡である。

そして、今床に散乱している膨大な紙の海。

これは、彼の軌跡である。




僕はハリネズミではない。

狐だ。

狐は決してハリネズミにはなれない。

ハリネズミのような生き方は、できない。




僕には、彼のやり残した続きを紡ぐことはできない。

彼の見込み違いだとしか言えない。




紙の海に飛び込んで、ひとかき。

鋭い痛みが走った。

どうやら紙で指を切ったらしい。

血が、転々と落ちる。




ほら、見ろ。



狐がハリネズミに近づいたから、刺されてしまったではないか。

これで、分かっただろ。

僕は狐なのだ。




溢れた涙は、彼の失った悲しみによるものだったのか。

それとも、彼の遺志を継げない悔しさによるものだったのか。




ハリネズミに憧れた狐は、夜通し泣き通した。



完。


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2009.04.10 Fri l 三題噺 l COM(0) TB(0) l top ▲

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